
目次
初めに
前回の税務コラムでは、令和7年度の税制改正により見直された基礎控除について解説しました。基礎控除・給与所得控除がどのように変わったのか、また新しく新設された特定扶養親族特別控除についても解説をしました。
今回のコラムでは、税制改正の基礎控除の見直しによって手取りがどのようになるのかについて何通りかのパターンで考えていきたいと思います。
前回のコラムについても読みたい方は、こちらから読んでください。
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令和7年度改正の内容を踏まえて
それでは令和7年度改正の内容を踏まえて手取がどのようになるのかを考えていこうと思います。まず前提条件として、社会保険料は三重県の40歳以上で仮定、雇用保険料は一般で仮定、配偶者の社会保険料については月額8万8,000円以上の場合には社会保険料に加入していると仮定、控除については基礎控除・配偶者控除・配偶者特別控除のみを考慮、住民税については考慮していません。以上の前提の上で読み進めてください。また、最後にはExcelのデータを張り付けておきますので、そちらからも確認をしてもらえます。
①収入の境目
まずは、収入の境目について次の5通りから考えてみましょう。
- 年間96万円→社会保険料が掛からない範囲
- 年間106万円→社会保険料の対象となる範囲(月額8万8,000円以上)
- 年間130万円→社会保険の扶養の壁
- 年間180万円→今回の改正の範囲内(新しい所得の壁の範囲)
- 年間200万円→所得の壁の外
①-⑴年間96万円
まずは、年間96万円ですがこの範囲は社会保険も所得税もかからないので全額が手取になります。特に何も気にすることがない範囲になります。
①-⑵年間106万円
この範囲になると社会保険の改正により一定の規模の企業で働いている場合には、社会保険の対象となる可能性がある年収の額となります。この場合には、改正により所得税はかかりませんが社会保険料がかかることが想定されますので、手取りとしては90万円を切る可能性がでてきます。つまり、この範囲の場合だと年間96万円の場合よりも手取が少なくなる可能性があるため、最も損をする金額と考えられます。よって、現在106万円前後であるのならば、96万円以内に収めるか若しくはもっと稼いでしまうかだと思います。また、今回のコラムでは詳しくは追及しませんが、住民税がかかってくるのもこの金額くらいからになります。
①-⑶年間130万円
この範囲は、社会保険の扶養とされている金額になりますが、一定の規模の企業で働いている場合には、社会保険の対象となる可能性がある年収の額となります。ただ、ここの額までこれば年間96万円の場合よりも手取は増えていきます。改正前であれば所得税がかかるため手取りが少なくなるということが考えられましたが、改正により社会保険だけで済むと考えられます。よって、96万円よりも手取を多くしたければ、この金額当たりまで働くことで手取が増えていくことになります。
①-⑷年間180万円
この範囲であれば、今回の改正の範囲内のため所得税はかかりません。つまり月15万円くらいまでであれば所得税はそれほど気にせずに働いていいと言えるでしょう。
①-⑸年間200万円
このあたりからは今回の改正の枠からも外れる可能性がある金額になります。所得税がかかり始めるのはこのあたりからと言えるでしょう。
どうでしょうか。このようにみると改正前であれば、130万円までいってしまうと損をしていたように感じますが、今回の改正により働いて稼いでも問題がないように見えるのではないでしょうか?むしろ、以前とくらべて毎月の給料を気にすることなく働けるようになるのではないでしょうか?おそらく今の情勢のままいけば社会保険料の扶養という概念がなくなる可能性が高いと思われます。全ての人に社会保険料がかかるのであれば、金額を気にしてセーブする必要もなく働けるだけ働いてお金を稼ぐことで手取を増やすことができると思われます。
⑵配偶者控除・配偶者特別控除との関係
次に、配偶者控除と配偶者特別控除を考慮した場合の関係を3通りくらいで見ていきましょう。
区分としては、①本人の給料が年間240万円の場合②本人の給料が年間480万円の場合➂本人の給与が1,200万円の場合で見ていこうと思います。
⑵-①本人の給料が240万円の場合
まずは、本人の給料が240万円の場合を見ていきましょう。この場合の本人の基礎控除は88万円になると思われます。そして配偶者控除・配偶者特別控除については、配偶者の給与が年間150万円くらいまでは38万円満額控除され、配偶者の給与が年間200万円くらいで3万円の配偶者特別控除となり、それ以降は配偶者控除が使えないことになるでしょう。配偶者控除の38万円の満額は配偶者の給与が年間150万円くらいまで使用できるため、配偶者の給与が年間150万円を超えるまでは本人の所得税もかからない計算になると考えられます。つまり本人の給与が年間240万円くらいで、配偶者の給与が年間150万円くらいであれば、本人と配偶者それぞれの所得税はかからず社会保険料の負担だけで済むことになります。
⑵-②本人の給料が480万円の場合
次に本人の給料が年間480万円くらいの場合を見ていきましょう。この場合の本人の基礎控除は68万円程度になると考えられます。基礎控除自体は①の240万円の時とくらべると少なくなってしまいますが、配偶者控除・配偶者特別控除の適用部分は変わりませんので、配偶者の給与が年間150万円くらいまでなら配偶者控除の38万円全額が使えることになります。しかし、このくらいの収入になってくると配偶者控除を考慮しても本人にも所得税はかかってくることになります。
⑵-➂本人の給料が1200万円の場合
最後に本人の給料が1200万円の場合です。この金額では基礎控除が58万円までさがることになり、さらに配偶者控除・配偶者特別控除の適用を受けることができなくなるので、所得税の負担としては一気に大きくなる年収額であるのではないでしょうか。ただし、社会保険料の面で考えれば、厚生年金は63万円のあたりで頭打ちになりますので、社会保険料負担は少なく感じると思われます。この額になると配偶者控除が使えなくなるため、配偶者の給与額を一切気にする必要はなくなります。そのため、配偶者の方がどれだけ稼いでも気にする必要はなくなるので、配偶者は給料を気にせず働くことができるようになります。
ここまで改正の内容を踏まえて何通りかの関係性を考えてきました。改正によって一番影響があるのは本人の給与額がいくらまでなら所得税がかからないことになるかということだと思います。改正前は103万円であったのが、今回の改正では200万円(社会保険料に加入していると仮定する)近くまで所得税はかからないことになると考えられます。
改正前と比べるとかなりの額まで所得税はかからないこととなったのです。しかし、このコラムないでも何回かでていますが、社会保険料の改正によって社会保険料の対象となる範囲は広がっているため、社会保険の壁であった130万円というものはなくなりつつあると考えられます。つまり、これからの時代において社会保険はかならずかかるものであると考慮すれば、手取りを増やす方法は壁を気にせずお金を稼ぐということになってくるのではないかと思います。
稼げば稼ぐだけ手取が増えると思ってもらっていいでしょう。もし、手取りと負担率を考慮して考えるのであれば、配偶者の収入が96万円程度ある場合が一番良く、それ以降は180万円程度までであれば負担率もあまり変わることが無いと考えてもいいと思われます。ただ、私の個人的な考えとしては壁を気にせずに働いてお金を稼ぐことが手取を増やすうえでは最もいいと考えます。
企業によっては配偶者手当というものがあり、それを考慮して配偶者の収入を抑えているという方もおられるみたいですが、政府としても配偶者手当を廃止するように働きかけているみたいですので、近いうちになくなってくるのではないかと思います。
今回のコラムでは、所得税の部分だけを考慮していますので、児童手当などの他の制度については考慮していないことについてご了承ください。他の制度についても考慮する場合には今回のコラムのような形にはならないかもしれませんので、関係各所に聞いていただくのがいい思います。
まとめ
ここまで今回の税制改正の大きな注目である基礎控除の見直しについて説明してきました。今回の改正により所得税の基礎控除は大きく範囲が広がる結果となったため手取りが増えるという意味では間違いなく影響があると思われます。しかし、その一方で社会保険については壁がなくなる方向に向かっているため、どの年収に対してもかかってくることになってくると考えられます。所得税の壁が大きく上がる一方で社会保険の壁はなくなるということを考えると、今までであれば、103万円の壁・106万円の壁・130万円の壁と何段階も気にしないといけなくなりましたが、所得税の壁だけを気にすればいいようになるのではないでしょうか。
今回のコラムでは前提条件から省いていましたが、住民税については今回の改正では大きな改正がされませんでした。住民税の非課税限度額としては110万円くらいがラインとなります。その為、所得税よりも住民税の課税負担が大きく感じるようなことに今後はなってくるのではないかと思われます。住民税や社会保険などについては所得税のような改正があるのか今後に注目をしていくのがいいでしょう。
最後になりましたが、私たちトラストコンサルティング(東憲吾税理士事務所)は伊賀市を中心にコンサルティングに特化した税理士事務所として活動しています。税務申告などの税理士業務だけではなく、経営コンサルティングや自計化、経営会議への参加など経営者の皆さまの悩み事を解決するための業務を主として行っています。またクラウド会計の導入による試算表の早期化や資金繰り支援・銀行融資支援など経営・会計のことで悩んでいることなどがあれば一度お問い合わせください。
配偶者控除と手取りの関係資料をここからダウンロードできます。
※あくまで参考程度に思ってください。