前回までのコラムでは、月次試算表の大切さについて説明してきました。そのなかで計画と実績の差異を見ることが大切ということを理解していただいたと思います。この章では、その計画の作り方について簡単に説明していこうと思います。
計画と言うと経営計画などの壮大なものを想像されると思います。今回は経営計画についても触れますが、詳しい内容に踏み込むことはせず、最低限必要な部分について解説していきたいと思います。
目次
①数値計画を作る
まずは前回以前のコラムでも大切と説明した数値計画の作成方法について解説していきましょう。
みなさん数値計画を作ってくださいと言われたらどこから考えますか?
おそらく売上から考えてしまうのではないでしょうか。実はその考え方は余りよくありません。というのも売上から考えてしまうと理想論に近くなってしまうからです。計画ですので、理想ではなく現実的に考えることがとても大切になります。
現実的というのは資金繰りが苦しくならない、キャッシュフローがしっかり回せるというところが大事になります。 それではどのように数値計画を作っていくことが良いのかを解説していきましょう。
⑴経費にならない支出を書き出す
まずは、経費にならない支出を書き出します。経費にならない支出とは何なのかですが、借入金の元本や長期未払金の元本、資産計上される保険をいいます。これらはキャッシュアウト(現金支出)をしていますが経費にはなっていません。そのためこれらの支出分は利益となり、税金がかかってくるためです。
これらの経費にならない支出を書き出してもらいます。
例えば、借入金の返済(年間100万円)・車の分割払い(年間50万円)・保険積立金(年間50万円)のような形です。ここで書き出した金額を全て足してください。足して出た金額が納税後に残っていないといけない金額ということになります。これらは利益から納税をした後に支払うものだからです。
⑵税引前の必要な利益を出す
経費にならない支出を書き出せたら税引前に必要な利益を考えます。
求め方は「(経費にならない支出の合計額―減価償却費)/(1-40%)」です。40%というのは法人税等のことと思ってください。法人税の実効税率は中小企業だと約35%なのですが、計算を簡略にするためと、多少計画とズレても安心なように、これくらいを見ておくのがいいと思います。計画ですのであまりシビアになりすぎないようにしましょう。多めに見ておく方が安心です。
ここで減価償却費を引いているのは、減価償却費は支出を伴わない経費だからです。
今回の例で考えてみましょう。減価償却費は50万円とします。
「(200万円-50万円)/(1-40%)=250万円」これが最低限必要な税引前利益ということになります。
検算をしてみましょう。税引前利益が250万円とすると、税率が40%なので税金は100万円になります。250万円から納税100万円を引いた150万円と減価償却費50万円の合計200万円が手元資金として残りはずです。この200万円から借入金などの返済をしていくということになります。これで資金繰りはあってきますね。
このことから今回の例だと250万円を超えた部分が全て現金で残ってくるようになるということになります。
この最低限必要な利益を把握するということが大切になってきます。売上から考えてしまうと、最低限必要な利益にはいきつかないかもしれないからです。
⑶固定費を考える
必要最低限の利益が分かりました。この利益は決算書でいう経常利益だと思ってもらえればいいでしょう。次は固定費を考えます。固定費とは何か覚えていますか?そうですね売上の増減に関わらずかかってくるものです。固定費は基本的には前年と同じくらいの水準になると思います。人材の採用を考えている場合や、規模の拡大などを考えていて固定費が増えそうな場合は都度加味してください。もし、そのようなことがない場合には前年と同じ金額を上げておけばいいでしょう。
固定費の中でも考える必要があるのが人件費です。役員報酬・給料・賞与・賃金の他に法定福利費や福利厚生がある場合には福利厚生も含めて考えてもらうのがいいと思います。まずこれらの人件費をいくらまで見るのかを考えましょう。
人件費の次がそれ以外の固定費です。地代家賃や水道光熱費、減価償却費などがあると思います。比較的前年と変わらないのであれば前年と同じ金額で考えてもらえれば大丈夫です。
これらで考えた人件費とその他固定費を先ほどの⑵の必要な利益に足し戻します。
今回の例では人件費が500万円その他の固定費が250万円で考えてみましょう。
計算すると、⑵250万円+500万円+250万円=1,000万円という結果になりますね。この1,000万円が最低限必要な粗利益という事になります。
この粗利益をいかにして獲得するのかを考えていくということですね。
この粗利益の獲得方法については第3章の損益計算書の部分で説明したことが生きてきます。
⑷粗利益を稼ぐ方法を考える
まずは、シンプルに考える場合です。シンプルに考えるのであれば、粗利益の額を前年決算の粗利益率で割ってみてください。そうすると必要な売上と許容範囲の変動費(原価率)が出てくるはずです。
今回の例では粗利益率が50%だとしましょう。
1,000万円の粗利益を50%で割ると2,000万円とでます。これが前年の粗利益をベースに考えた時に必要な売上高であり、2,000万円と1,000万円を引いた1,000万円が原価に使える分となります。シンプルに考える場合にはこのような方法で求めることができます。
この場合は、売上高が2,000万円以上となり原価率が平均して50%になれば達成できるということになります。
しかし、実際はそのようにいきません。なぜなら複数の商品が存在しているからです。複数の商品が存在していれば粗利益率が40%のものもあれば90%のものもあると思います。これらの商品それぞれでどれだけの粗利益を目指すかということを考えていく必要があります。こうすることでより詳細な目標を立てることができます。
例えば、今回の例でA商品(利益率20%)のものとB商品(利益率80%)のものがあるとしましょう。これら2つの商品の目標を合わせて粗利益の目標を超えることができればいいはずです。
なので、A商品で1,000万円の粗利益を目指し、B商品で1,000万円の粗利益を目指すとします。A商品は利益率が20%ですので、必要な売上は5,000万円が必要となります。1つ当たり1,000円とすると年間で5万個売る戦略を考える必要があるということですね。それに対してB商品は利益率が80%もありますので、必要な売上は1,250万円で済みます。1つ当たり1,000円とすると12,500個を売る戦略を考える必要があるということになります。
通常はこのように複数の商品があるはずですので、このような考え方の方が現実的と言えると思います。このように粗利益を稼ぐ方法を考えることが経営戦略となってくるのです。先ほどのA商品とB商品の例で考えれば、B商品の利益率がいいのですから、B商品を多く売れる方法を考えるほうが目標も達成しやすいですよね。これを第3章でも説明した方程式を使用して考えて良くということになります。
ここまでで気づいた方もおられるかもしれませんが、実は一番大事なのは粗利益になります。売上がいくらあっても利益が無ければ意味がないのです。そのため粗利益ベースで考えるということがとても大切になります。
先ほどの例に戻りましょう。売上を目標にしているとどのような事が起こりやすいか考えてみてください。A商品の売上を達成するためには多く売る必要がでてきますよね?A商品を多く売るために値引きをするのではないでしょうか。値引きをして値段を下げることで数を多く売り売上を達成するということが起きやすくなります。
しかし、A商品の利益率は20%です。値引きをして利益率が15%になってしまったとしましょう。すると売上の目標5,000万円は達成しましたが、利益率が15%になってしまったため粗利益は750万円になってしまいました。結局売上の目標は達成したけれど粗利益の目標が達成できていないため利益は赤字となってしまいます。
このような現象を起こしている会社が多くあるように感じます。
このような事態にならないために大切なのが粗利益をベースに考えるということです。たとえ売上の目標が達成できていなくても粗利益の目標を達成できていれば問題ありません。売上至上主義にならないように気をつけましょう。
ここまでが数値計画になります。これで1年間の数字はできたのでこれを月ごとに振り分けていきます。ここの振り分けで大切なのが固定費は毎月同じであることが多いので12按分でも構いませんが、粗利益については繁忙期や閑散期を加味することが大切ということです。例えば、居酒屋であれば歓送迎会や忘年会のシーズンは多くなると思いますし、逆に2月などの日数が短い月や閑散期には少なくなると思います。この繁忙期・閑散期については加味して12カ月に割り振ってもらうのがいいでしょう。
これで12カ月の予測・計画が完成します。これと月次での実績を見比べて毎月修正していくことが大切ということです。