税務コラム~令和6年度改正の賃上げ促進税制を再確認~|中小企業に絞って解説|伊賀市の税理士が教える

2025.08.30
節税対策と書かれている

賃上げ促進税制とは

今回の税務コラムのテーマは、令和6年度税制改正の1つである賃上げ促進税制について解説しようと思う。

なぜ今頃?と思われるかもしれませんが、令和6年度改正ですが実際に適用され始めているのは、令和7年3月期の決算申告からのためです。今、このタイミングでもう一度再確認という形で解説しようと思います。

賃上げ促進税制自体は令和6年度税制改正で新たにできたものではなく、以前からもある税制である。少し前までは賃上げ促進税制ではなく、所得拡大促進税制などとも呼ばれていた。その賃上げ促進税制に令和6年度税制改正で強化された部分がいくつかあるために、今回の税務コラムで取り上げることにした。

 賃上げ促進税制は賃上げが叫ばれている今の時代に一番適合している税額控除の制度になっていると思う。他にも節税のための制度が多く存在しているが、賃上げ促進税制が節税の中でも従業員にも影響があるため、会社と従業員それぞれwin-winになれる節税対策ではないかと思う。

今回のコラムでは、まず初めに令和6年3月31日開始の事業年度まで適用されていた旧賃上げ促進税制を説明し、次に令和6年度税制改正により強化された賃上げ促進税制について説明をしようと思う。なお、今回は全部を説明しようとすれば長くなるため中小企業向けに絞って解説をする。また、上乗せ要件とされている「くるみん認定」「えるぼし認定」についても解説は省くことにする。それぞれのURLは記載しておくので気になる方は、そちらでそれぞれ確認してもらいたい。それでは解説に進もうと思う。

旧賃上げ促進税制(令和4年4月1日~令和6年3月31日までの間に開始する事業年度)

まずは、令和6年3月31日までの間に開始する事業年度に適用されていた旧賃上げ促進税制から解説をしようと思う。

そもそも賃上げ促進税制は、どのような仕組みかを説明すると、適用年度(決算の年度)の給与等の額前事業年度の給与等の額と比べていて一定以上上がっている場合に適用されるというものである。適用要件には細かい内容があるため、今から説明しようと思う。

その前に賃上げ促進税制を理解する上で大切な用語の意義について覚えてもらう必要があるので、それぞれの用語の説明から始める。各用語については、旧賃上げ促進税制でも、令和6年度改正の賃上げ促進税制でも同じである。

〈用語説明〉

中小企業者等青色申告書を提出する法人のうち、資本金1億円以下の法人(ただし一定の法人を除く)、従業員数1,000人以下の法人、協同組合等をいう

給与等→俸給、給料、賃金、賞与、その他これらの性質を有する給与(通勤手当を含む)など給与所得になるもの。退職金は除く

雇用者給与等支給額適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される全ての国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。ただし、給与に当てるために他の者から支払いを受ける金額がある場合は除く(出向先からの負担金など)

国内雇用者→法人または個人事業主の使用人のうち国内に所在する事業所につき作成された賃金台帳に記載されている者をいう。(国内の事業者に使用されている全ての者をいい、パート・アルバイトも含まれる)ただし、使用人兼務役員を含む役員及び役員の特殊関係者、個人事業主の特殊関係者は除かれる(役員とその親族はダメ)

比較雇用者給与等支給額前事業年度の雇用者給与等支給額をいう

教育訓練費→所得の金額の計算上損金の額に算入される、国内雇用者の職務に必要な技術または知識を習得させ、または向上させるために支出する費用のうち一定のものをいう。

参考URL(9ページ~11ページ)…https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/syotokukakudai/chinnagesokushin04gudebook.pdf

以上で用語の説明は終了となる。本来はもう少し細かく書かれているが、理解する上ではこれくらいで十分だと思うためにこれくらいにして、本題に入ろうと思う。

⑵-①適用要件

まずは、賃上げ促進税制の適用要件から見ていこう。中小企業向けの賃上げ促進税制の適用要件はすごくシンプルで、雇用者給与等支給額が前年の比較雇用者給与等支給額と比べて1.5%以上増加しているかどうかだけである。

つまり、役員及びその特殊関係人を除く給与や賞与の額の総額を前年と今年と比べて1.5%以上増えていれば適用要件に該当する。たったの1.5%以上増加するだけでとりあえずは適用要件を満たすということ。

⑵-②税額控除

①の適用要件をクリアした場合の税額控除は控除対象雇用者給与等支給増加額(今年と前年の雇用者給与等支給額の差額)の15%を法人税額(個人事業主は所得税額)から控除することができる。上限は法人税額の20%までと決められているが増加した給与の15%もの金額が税額控除として控除することができるので、すごくお得な税制ではないだろうか。

適用要件としては雇用者給与等支給額が増加していることであるため、適用事業年度に新しい従業員を雇用した場合、退職している従業員がいない限りはほとんどが対象となることになる。中小企業向けについてはこれくらい要件としてゆるく適用しやすい税制になっているといえる。

⑵-③上乗せ要件1

賃上げ促進税制には多くの上乗せ要件がある。上乗せ要件とは差額に15%を掛けるというこの15%を増やすことができる要件のことである。

まず1つ目の要件は、雇用者給与等支給額が前年と比べて2.5%以上増加するということである。適用要件が1.5%以上だったのが、2.5%以上増加していることで、税額控除率に15%上乗せされる。15%に15%上乗せのため、2.5%以上増加するだけで30%も税額控除することが可能となるのだ。上限は変わらず法人税額の20%のため法人税額が少ないとあまり効果はないが、法人税額が大きいところであるとかなりの効果が期待できるのではなだろうか。

⑵-④上乗せ要件2

2つ目の上乗せ要件は、教育訓練費の額が前年度と比べて10%以上増加しているというものである。この上乗せ要件を満たそうと思うと、教育訓練費をあらかじめ把握しておくことが欠かせない。教育訓練費の対象となる支出をしている企業は会計処理の段階で、研修費や教育訓練費という勘定科目を使用して管理しておくのがいいと思う。

この上乗せ要件を満たせばさらに10%上乗せされる。つまり上乗せ要件1と2のどちらも満たした場合には、最大40%の税額控除が認められるということになる。ただし、これも上限額が法人税額の20%と決められているため法人税額が多いところでないと有利に働かない場合が多い。しかし、上乗せ要件1も2も管理・予測さえすれば簡単に達成できる内容であるため、節税対策としては比較的使いやすい要件ではないかと思う。

以上が令和6年3月31日までに開始する事業年度に適用される賃上げ促進税制の内容である。次の章から令和6年度改正で強化された賃上げ促進税制の内容を見ていこうと思う。

令和6年度改正賃上げ促進税制(令和6年4月1日~令和9年3月31日までの間に開始する事業年度)

では、令和6年度税制改正により強化された賃上げ促進税制の説明をしていこうと思う。大まかな内容と流れについては、旧賃上げ促進税制と同じため、主に変更点のあった部分についてのみ説明していくことにする。

⑶-①変更点1(教育訓練費の上乗せ要件の緩和)

まず、1つ目の変更点教育訓練費の上乗せ要件の緩和である。以前の賃上げ促進税制では教育訓練費について前事業年度と比べて10%以上の増加が必要とされていたが、改正された賃上げ促進税制では前年度と比べて5%以上の増加でよいこととされた。

たったの5%の増加で上乗せ要件を満たすことができ、10%の税額控除の上乗せが行われることになった。これは中小企業のみ緩和されたため、教育訓練などを行っている企業は使って損はないと思われる。

⑶-②変更点2(上乗せ要件の追加)

給与支給額の増額と教育訓練費の増額の上乗せ要件に追加して、新たな上乗せ要件が設けられた。それが、「くるみん認定」「えるぼし認定」の取得要件である。「くるみん認定」「えるぼし認定」の解説をするときりがないので省略をするが、「くるみん」「えるぼし二段階目以上」の認定を受けることで5%の上乗せをするという要件が追加された。子育て支援や女性活躍支援に積極的な企業はこの、「くるみん」「えるぼし」の認定を取ることで5%の上乗せをとることができるので、積極的に認定を取ることをお勧めする。

 

今回加えられた、この上乗せ要件を合わせると最大45%もの税額控除を受けることが可能となるのが今回の改正で強化された部分である。ただし、上限は変わらず法人税額の20%のため法人税等の額が大きい場合にはメリットが大きくなると考えられる税制である。

上限が20%と決められているが、従業員にとってもメリットがある節税対策のため、節税を考えている方は積極的に活用していくのがよいと考える。

⑶-③変更点3(5年間の繰越が可能)

そして3つ目の強化された部分が、控除されなかった控除税額について5年間の繰越が可能となったことである。これが今回の賃上げ促進税制の中で最も良い影響がある改正だと私は思う。今までの賃上げ促進税制では、賃上げをしているのに赤字で法人税額がでなかった場合や、法人税額が少なかったため20%の上限額を軽く超えてしまっていた場合には、本来使うことができるはずだった控除額を捨てていることになっていた。

 その捨てていた部分にについて今回の改正により5年間繰り越して使えるようになったのだ。ただし、この繰越をするためには、給与等が増加していた場合に法人税の申告書に別表を付けておく必要がある。いままででは、黒字の場合に限って賃上げ促進税制を使用することができていたため、黒字の決算の時にだけ要件を満たせば別表を作成していればよかったのだが、今回の改正にある繰越控除を使用するためには、赤字の決算であっても賃上げ促進税制の要件を満たしていれば別表を作成する必要がでてきた。この時に別表を作っておかないと繰越ができないために注意が必要である。さらに、この繰越を翌事業年度以降に使用する場合には、その使用する事業年度において前事業年度よりも給与等の金額が1円でも増えている必要がある。つまり繰り越し分を使用しようと思っていても、その使用する事業年度の給与等の額が前事業年度の給与等の額と比べて少なければ、法人税額がでていても繰越控除を使えないということである。

よって、この繰越控除を使用するためには、全ての事業年度において給与等の額を把握しておく必要がある。毎月の単位で把握をしていないと決算の時になって結局使えなかったということも起こる可能性があるのだ。顧問税理士の方と連携をとって毎月の単位で給与等を把握し、使用できるかできないか、使用するかしないかを判断していく必要がでてきたのである。

特に年に1回しか試算表を作成しないというような方は注意した方がいい。せっかく使えたのに使えないなど損をすることがあり得るからだ。これを機に毎月試算表を出せるようにすることや、給料計算だけでも自社で行うことにするなど変更を考えるのも手かもしれない。

そして、5年間の繰越が可能となるが繰越を使用する場合にも上限は合わせて法人税額の20%だということにも気を付ける必要がある。上限はどんな時にも法人税額の20%ということだ。しかし、この改正のおかげで税額控除を使用することができる可能額について無駄にするということはなくなったのではないかと思う。赤字であっても繰り越されるため5年以内の黒字の際に使用することが可能となったし、法人税額の20%を税額控除額が超えていても5年以内に使うことができるようになったためだ。

節税対策の中でも比較的使いやすくメリットを受ける人が多いのがこの賃上げ促進税制のポイントであると思う。税額がでるという方は是非とも使って欲しい税制である。

まとめ

今回は令和6年度の税制改正の1つである賃上げ促進税制の強化について解説してきた。この令和7年3月31日に決算を迎える法人から適用されるためにこのタイミングで解説を行おうとおもった。世の中的にも賃上げが叫ばれている中での税制となるので、比較的使いやすいのではないかと思う。

また、これを機に経理の仕方や管理の仕方を考えなおすタイミングにもなるのではないかと思う。税額が出る方に限らず、赤字であっても賃上げを行った方は忘れずに別表を作成してもらってほしい。忘れると繰越ができないのが注意点である。忘れないようにしよう。

最後になりましたが、私たちトラストコンサルティング(東憲吾税理士事務所)は伊賀市を中心にコンサルティングに特化した税理士事務所として活動しています。税務申告などの税理士業務だけではなく、経営コンサルティングや自計化、経営会議への参加など経営者の皆さまの悩み事を解決するための業務を主として行っています。またクラウド会計の導入による試算表の早期化や資金繰り支援・銀行融資支援など経営・会計のことで悩んでいることなどがあれば一度お問い合わせください。

お問い合わせ

CONTACT

お問い合わせは以下ページから
お気軽にお問い合わせください。
通常3営業日以内に当事務所よりご返信いたします。

お問い合わせ・相談をする

24時間受付