
目次
初めに
今回のコラムで、資本的支出と修繕費について一旦終了しようと思います。前回のコラムまでで、資本的支出と修繕費の定義、資本的支出と修繕費の判断の方法について考えてきました。今回は、資本的支出と修繕費の具体例についていくつか考えていこうと思います。前回までのコラムを読みたいという方は下記のURLから前回のコラムから確認してください。
前々回コラム→会計コラム~資本的支出と修繕費について(その1)~
資本的支出と修繕費の具体例
それでは、さっそくそれぞれの具体例について考えていきましょう。国税庁の質疑応答事例にしっかりと答えが書かれているものもあれば、そうでないものもあります。さまざまな文献を基に記載していますが、人によっては判断が異なってしまうことについてはご了承ください。同じような事が行った場合には、顧問税理士の方と相談して判断してもらうのがいいでしょう。
⑴資本的支出の具体例
資本的支出の具体例から何点か見ていきましょう。
①具体例1
ビルの建物の壁を全面コンクリートからタイル壁に張り替えた場合の費用
結論 資本的支出に該当
理由
この場合の張り替えは、明らかに建物の改造にあたるため資本的支出に該当するためです。この具体例では、コンクリートからタイルへと明らかに違う材質のものに張り替えているため、改造とみられて資本的支出に該当することになります。ただし、同じ張り替えであっても、経年劣化によりコンクリートが悪くなったためビルの維持管理のために同じ材質のコンクリートに張り替えた場合には全額修繕費として計上してもいいと考えます。
②具体例2
雨漏りのための屋根の防水工事にかかる費用
結論 防水工事の仕方によっては資本的支出に該当
理由
この具体例の場合は防水工事の仕方によって判断がわかれると考えます。例えば、「屋根カバー工法」による防水工事の場合であれば、屋根の上の新たに屋根をかぶせる工事となるため、固定資産の耐久性を増すと考えられるため資本的支出に該当すると考えられます。
しかし、同じ屋根の防水工事であっても漏水部分のみの防水工事や、陸屋根の漏水で雨漏り箇所が判断しにくい場合の維持管理のための屋根全体の防水工事については全額修繕費として計上してもいいと考えられます。
③具体例3
貸店舗の模様替えにかかる改装費用
結論 資本的支出に該当
理由
貸店舗の模様替えにかかる費用は改装・改造と考えられるため資本的支出となる。貸ビルなどのテナントを改装する場合には、明らかな用途変更となると考えられ、改装となるために資本的支出になると考えられます。しかし、用途変更ではなく経年劣化場合の維持管理のための床の張り替えや壁の張り替えは修繕費として計上してもいいと考えられます。
④具体例4
賃貸用マンションのユニットバスへの取替費用
結論 資本的支出に該当
理由
賃貸用マンションなどの浴室の取替費用などについては、居住のための維持管理のための費用のように捉えられますが、物理的・機能的にわけることができない設備について既存の設備から新しい設備の新設と捉えられるため資本的支出となる。イメージとしては、既存のものを取壊し・廃棄して新しいものを設置していると考えられるためである。経年劣化による取替であったとしても、新たに設置がされているため資本的支出と考えられます。
このように全体部分の取替については新しいものの設置と捉えられるが、壁の一部分が破損したためのその部分の取替などについては修繕費として考えてもいいと考えられます。
⑵修繕費の具体例
①具体例1
蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り換える場合の費用
結論 修繕費に該当
理由
蛍光灯を蛍光灯型のLEDランプに取り換える場合には、資産としての価値・耐久性が増すと考えられるため資本的支出になるように思いますが、蛍光灯部分については照明設備の部品の1つであり、その部品の性能が高まっても附属設備(照明設備)としての価値が高まるとは考えられないため修繕費として計上することができると考えられます。また、最近の市場全体を考えても蛍光灯自体の生産が少なく、ほとんどがLED型に置き変わりつつあることを考えると、従前どおりの使用をするために必要な費用と考えられるため修繕費と考えてもいいでしょう。
ただし、注意点があります。この具体例では蛍光灯部分について蛍光灯を蛍光灯型のLEDに変えることは修繕費としていいとしていますが、LEDランプを付けるために照明設備そのものを交換する場合には資本的支出に該当することになりますので気を付けてください。照明設備を交換するということは建物付属設備としての価値が高まると考えられるからです。そのためLEDに変える場合には照明設備まで変えるのか、電球・蛍光灯部分のみを変えるのかによって判断が変わります。
この点については工事業者の方に契約書や請求書に明記してもらっておくのがいいでしょう。
②具体例2
トラックの速度抑制装置の装着にかかる費用
結論 修繕費に該当
理由
この具体例の理由としては、法令等の改正に従って不可避的なものであると考えられるからです。法令等の改正にともなって設置・装着しないと従前のように使用することが不可能となる場合には、維持管理のための費用と考えられるので修繕費として計上することが可能と考えられます。法令等には国が定める法律だけでなく、都道府県などが定める条例も含んで考えていいと考えます。
ただし、この法令等の改正に従うためとしていますが、義務としてしなければいけない部分に限ります。例えば、法令の改正によって制度ができたとして、その制度の中に義務となる部分と優良となる部分があるとします。この場合の修繕費と認められるのは義務となる部分までの範囲です。優良となる部分に該当するために行った設置・改装等は資本的支出と考えられますので気を付けてください。
③具体例3
既存設備の移設にかかる費用
結論 基本的には修繕費に該当
結論 基本的には修繕費に該当
理由
例えば新規の機械を購入した場合に既存の機械を移設する場合の費用については、新規の機械の導入に付随して生じるものであると考えられるため修繕費と考えられます。この場合、あくまで主役は新規の機械の導入であり、導入するにあたり仕方なく発生する費用が移設費用となるので、通常の業務を行うためにやむなく移設しないと使えないと考えられるため修繕費となります。
新規の機械を購入しなかったとしても、既存の資産の移設にかかる費用は業務に必要な費用と考えられ、特に価値が高まるものでもないので修繕費として計上してもいいと考えます。
ただし、移設でもガスタンクなどの据付に多額の費用が必要となる移設については資本的支出と捉えられるので注意が必要です。また集中生産やよりよい立地条件において生産を行うための機械の移設等については、利用価値が向上したと考えることができるため資本的支出に該当すると考えられます。
この判断については、移設する理由や状況、移設物などの全体で判断する必要があるでしょう。
④具体例4
ソフトウェアの修正等にかかる費用
結論 基本的には修繕費に該当
理由
ソフトウェアの修正にかかる費用については内容によって判断することとなります。例えば、法令に伴うための修正があった場合は修繕費に該当します。そのほかにもウイルスの除去・復旧作業にかかる費用についても維持管理のための費用であるため修繕費と考えられますし、バグ取りやデザインの変更にかかる費用も修繕費と考えていいでしょう。ただし、明らかに機能・性能として新しいものが追加される場合などについては資本的支出と考えられます。例えば、ウイルス除去のために新しいソフトを購入した場合なども資本的支出に該当するでしょう。
まとめ
いかがでしたか。ここまで資本的支出と修繕費の具体例について、それぞれいくつか挙げて考えてきました。判断については、前回・前々回のコラムの内容を基に判断することとなりますので、同じような内容であっても具体例と違う結論になることもありえます。その時その時の実態に合わせて判断していくしかないのが、資本的支出と修繕費の論点となるでしょう。
実際の経営をしていくなかでも頻出の問題となるのが、この資本的支出と修繕費だと思います。金額が大きければ大きいほど税務調査で指摘を受けたときのダメージも大きくなるので、慎重に判断をしていきましょう。実際の実務においては、顧問税理士の方と一緒に考えていってもらうのがいいと思います。
最後になりましたが、私たちトラストコンサルティング(東憲吾税理士事務所)は伊賀市を中心にコンサルティングに特化した税理士事務所として活動しています。税務申告などの税理士業務だけではなく、経営コンサルティングや自計化支援、経営会議への参加など経営者の皆さまの悩み事を解決するための業務を主として行っています。詳しい内容はHPのそれぞれのコンサルティングのページを見てください。また、クラウド会計の導入(会計ソフトfreeeを標準採用)に興味がある方・導入したけれどうまく運用がいっていないという方についても一度お問い合わせください。
※現在freee認定アドバイザー1つ星を獲得しています。