令和7年度税制改正の説明~前コラムを参照して~

2025.06.07
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⑴初めに

 国会も終わりに近づき税制改正大綱であげられて焦点となっていた内容についても、決定がされ始めてきました。今回のコラムでは前回に記載しているコラムの税制改正大綱の内容についてどのような結果になったのかを解説していこうと思います。

 前回のコラムについても読みたいという方は下記のURLより前回コラムの方へ飛んでください。国会の審議の中では税制改正大綱の時と比べて大きく内容が変わったものもあれば、改正大綱通りの内容になったものもあり、また審議が進まず実現しなかったものを多くあります。今回の改正では一体どこまで税制改正大綱の中身が決まったのでしょうか。いまから見ていきましょう

 前回コラム→令和7年度税制改正大綱の説明~私見を含む~ | 伊賀市の税理士なら東憲吾税理士事務所

⑵税制改正大綱の中身と改正された内容について

 ①基礎控除の見直し

 まずは、今回の改正大綱の中でも一番の話題となった基礎控除等の見直しです。所謂、所得の壁というやつですね。税制改正大綱内では、以前の103万円という金額から123万円に上げるという内容でした。20万円の増加でもかなりの増加の様に感じますが、今回の国会できまった改正は103万円から160万円まで引き上げられることとなりました。税制改正大綱で説明されていた部分とくらべるとかなり大幅な修正が入ったものと考えられるでしょう。なお、この内容について詳しく説明してしまうと、コラム1本分を費やすことになってしまうので、後日に別コラムとしてこの内容について触れたいと思います。

 そして、基礎控除の見直しの中であったもう1つの改正が特定親族特別控除になります。これは大学生世代の所得が48万円(給与収入で103万円)を超えると親の所得税の扶養から外れ、親の税負担が急激にあがるという所得の崖に対して考慮されることとなった改正になります。こちらの改正については大綱の通りの改正となり、給与収入で103万円から150万円まで大幅に増額されることになりました。また150万円を超えても188万円までは段階的な控除も設けられたため、今回の改正の中でも大きな改正の1つと言えるでしょう。ただ、この改正には注意点もあり所得税法上では150万円まで引き上げられましたが、社会保険料の扶養となる130万円の壁については今回の改正では動きがないことになっているため、130万円を超える場合には親の社会保険の扶養から外れ、国民保険・国民年金に加入する必要となる可能性があるのではないかと考えられています。よって150万円までは所得税法上は扶養になるのですが、社会保険を考えると130万円までに抑えておくのが望ましいでしょう。社会保険の改正などに注意を払って置く必要があると思われます。

②子育て支援に関する政策

 次に子育て支援に関する政策の税制改正についてです。この内容としては生命保険料控除の見直しと住宅ローン控除の見直し(延長)について解説していたと思います。この2つについては、改正大綱の内容で改正がされることになります。

⒈生命保険料控除の見直し

 生命保険料控除の見直しについては、23歳未満の扶養親族を有する子育て世帯の者が受ける生命保険料控除について上限を4万円から6万円に引き上げるというものです。ただ、この引き上げは令和8年度のみの時限措置とされていますので、大きな改正とは言えないでしょう。令和8年度のみ生命保険料控除が2万円多く控除されるだけですので、税額控除の影響としてもほとんど実感できない程度になると思います。

⒉住宅ローン控除の上限額の延長

 そしてもう一つが住宅ローン控除の借入限度額について子育て世帯については上限額が大きくなるというものです。これについても改正大綱の通りの改正となり、また現行の制度と内容は変わらず期間が延長されるだけですので、大きな改正とは言えませんが、子育て世帯の方が家を建てる時や購入するときには大きな影響となりますので、延長されてよかったと言えるでしょう。特に物価上昇が激しい昨今では昔と比べて家を建てるのも高くなっていると思います。そんな中住宅ローン控除についてはどちらかというと範囲が狭くなってきているように思えますので今回の上限額が延長されるという改正について影響は大きいのではないでしょうか。現時点で家を建てようと検討している方については、この住宅ローンの上限額が延長されている間に家を建てることをおすすめします、比較的住宅ローンの税制については要件が厳しく・範囲は狭くなりつつある税制になっているのが現状です。ここ数年の改正で、適用を受けることができる人の所得制限が小さくなり、また建てる家も環境に配慮している家である必要があるなど要件が厳しくなってきています。そのため住宅ローン控除を受けるための建築費用なども必然と高くなっているのが現状です。住宅ローン控除については、いつの改正でまた厳しくなるかわかりません。ですので、今の機会に住宅ローンを借りて建設することを検討してみてはいかがでしょうか。

 ただ注意点として、昨今の金利の上昇を受けて住宅ローンの金利も上がりつつあります。住宅ローン控除の控除率は数年前までは1%あったものが2年ほど前の改正で0.7%に下がりました。その原因としてマイナス金利の影響で金利が少なかったこととされています。しかし、最近は金利の上昇により金利が上がってきていることを考えると、もしかすると数年後の税制改正では住宅ローンの控除率が0.7%より良くなるかもしれないということも考えられます。あくまで可能性があるというだけで、1%から0.7%に下がるのにも何年もかかっているので、反対に上がるのにも長い年月がかかることが想定されますので、大きな期待はしない方がいいとは思いますが、控除率がよくなるかもしれない可能性があるということだけ思っておいてもらえればいいと思います。

 この住宅ローン控除の控除率の適用については、家を建てるタイミングとの兼ね合いになると思いますので、深くは考える必要はないと思います。むしろ、今の上限額が延長されていることの方が長い目で見れば得をすることが多いと思いますので、上限額が大きい間に建てることを検討することがいいでしょう。住宅ローン控除については、ほぼ毎年の様に細かい部分で改正が加わりますので、毎年注目しておく必要があるといえます。住宅ローン控除の部分については建築会社の方が詳しいときもありますので、検討している工務店などに聞いてもらうのもいいかもしれません。またエコ補助金なども出ているときがあるので、併せて情報を収集してもらえるのがよいでしょう。

③個人型確定拠出年金

 そして3つ目が個人型確定拠出年金の拡充についてです。個人的にはこの改正が一番大きな影響となるのではないかなと思っていたのですが、国会の議論が進まず見送られる形となりそうです。この改正の内容としては、個人型確定拠出年金の上限を大きく引き上げるというものでした、具体的には第一号被保険者は現行の6.8万円から7.5万円に第2号保険者は企業年金の有る無しにもよるのですが、上限を合計6.2万円まで大きく拡大されるというものでした。個人型確定拠出年金は掛け金の全額が所得控除され、60歳を超えてもらう際には退職所得の対象として課税され、運用益部分は非課税とされるような制度であり、現役世代が高齢化した際の自分自身でためる年金のような性質があるもので、節税としての役割が大きかったものになります。改正の中では所得が多い人に対するお金持ち優遇税制的な面があるため、この改正により恩恵を受ける人が全員ではありませんが、節税という意味では大きいな改正となる予定でした。国としては、年金の財源確保などの課題があるため、今後も個人型確定拠出年金の改正には力をいれるのではないかなと個人的には思っていますので、今後この改正が再び持ち上げられ実施される日も来るのではないかと密かに思っています。今回の税制改正では残念ながら実施されませんでした。

 ただ、前回の改正大綱の説明の際にはしていなかったのですが、個人型確定拠出年金がからむ部分で納税者不利の改正が一部されています。それが、退職所得控除にかかる部分の調整です。現行の制度では、通常の退職金を支給される前に確定拠出金の一時金の支給を受けている場合には、5年間の期間があいていれば、退職金・確定拠出金ともに退職所得控除の満額の適用をうけることができていたのですが、改正により5年が10年へと延びることになりました。そのため、確定拠出年金の受給期間が60歳から70歳の間となっているので、60歳に確定拠出年金の受給を受けた場合には、70歳以降に退職金をもらわなければ満額の退職所得控除が使えなくなるということになりました。現在の定年が65歳であることを考えると実質的には退職金・確定拠出年金の両方で退職所得の満額控除を受けることは不可能ということになります。調整計算が入るということで全く受けることができないというわけではないのですが、受けることができる金額が少なくなってしまうため、実質増税といえる改正になるのかなと思います。

 この個人型拠出年金の改正については、個人的には改正されて拡充されることを願っている税制になります。

④法人課税の見直し

 最後は法人税の見直しです。これについては大綱で記載されていた通りの改正となります。防衛特別法人税として、法人税の課税標準額に4%を乗じた金額を加算して徴収するというものになります。これは明らかな増税となる改正になります。

 増税の改正にはなるのですが、すべての法人が対象となるわけではありません。基礎控除として500万円が設定されていますので、実際にこの防衛特別法人税の対象となる法人は、法人税の計算の基礎となる所得が2400万円を超える法人となります。つまり、税引前の利益で2400万円を超える法人が対象となりますので、このラインを超えない法人には課せられません。ですので、増税ではありますが対象となる法人はあまり多くはないことになると想定されています。また、税率も4%と比較的低い税率ですので、たとえ対象となったとしても大きな影響はないと考えていいと思われます。

 例えば、法人税の計算の基礎となる所得が3,000万円の中小企業と仮定して計算すると、法人税が約600万円で防衛特別法人税は5万円くらいとなります。法人税の納付額と比べるとかなり少ない金額ですので、負担としてはあまり大きいものではないのではないでしょうか。ですので、あまり深く防衛特別法人税の対象になると思って節税をする必要があるというものでもない程度の増税となると予想されます。

 このように税制改正大綱で書かれていた改正で前回に解説したものがどのようになったのか今回のコラムで解説してきました。

 やはり今回の改正で一番大きいのは基礎控除の見直しでしょう。この見直しについては、大綱の時とくらべてもかなり複雑になりました。全体像を理解するだけでもかなりの労力になると思いますが、改正内容としては良い改正になっていると思いますので、ぜひ基礎控除の見直しについて理解を深めてみてください。

 この基礎控除の見直しについては、別途コラムを書く予定ですので、そちらを参照していただいても構いません。

⑶まとめ

 皆さんは今回の改正についてはどのように思いますか?一番のポイントは何度も言うように基礎控除の見直しになると思います。今までの壁がなくなったことで、今までの思っていた働き方が大きく変わるのではないかと思います。この改正によって働きやすい環境になるのではないかと思います。企業によっては配偶者手当のような形で所得の制限がされているところもあるみたいですが、その点についても国から見直すような通達が出されていますので、そのような手当についても見直しがされることになるのではないでしょうか。

 基礎控除の見直しのほかにも改正がされていますので、ここで扱っていない改正についても気になる方は各省庁のHP等で調べてもらえればよいかと思います。今回のコラムでの説明はこれくらいにしておこうと思います。また、改正の内容について詳しい情報などもコラムで記載していければと思いますので、ぜひ他のコラムも読んでもらえるとありがたいです。

 最後になりましたが、私たちトラストコンサルティング(東憲吾税理士事務所)は伊賀市を中心にコンサルティングに特化した税理士事務所として活動しています。税務申告などの税理士業務だけではなく、経営コンサルティングや自計化、経営会議への参加など経営者の皆さまの悩み事を解決するための業務を主として行っています。またクラウド会計の導入による試算表の早期化や資金繰り支援・銀行融資支援など経営・会計のことで悩んでいることなどがあれば一度お問い合わせください。もちろん今回の税制改正に関する税務関係での問い合わせも受け付けています。

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