令和7年度税制改正大綱の説明~私見を含む~

2025.06.03
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初めに

令和6年12月27日に令和7年度の税制改正大綱閣議決定された。税制改正大綱とは毎年12月に与党を中心に今後の税制改正についての概要などがまとめられた資料のことで、この税制改正大綱をもとに今後の税制が改正されることになるため、税制改正大綱の中身を知ることで、今後どのように税制が向かっていくのか、どのような税制が誕生するのかを確認することができるのだ。

今回はそんな令和7年税制改正大綱の中でも特に重要となるであろう論点をいくつか絞って解説しようと思う。なお税制改正大綱の段階のため、これから通常国会などを通して本格的に決められていくため、この税制改正大綱のまま進むとは限らない。大きく内容が変わることもあるし、そもそもなくなることもあり得る。さらに税制改正大綱には書かれていなかった新しい税制が誕生することもある。そのためこのコラムが全てとは思わないでいただきたい。このコラムで説明した内容について正式に決定した場合には別の機会に正確な内容で改めて解説をしようと思う。

今回のコラムでは、令和7年度税制改正大綱で重要論点となるであろう、①所得の壁の変更②子育て支援に関する政策税制(生命保険料控除の見直し・住宅ローン控除の見直し)➂個人型確定拠出年金の強化④法人課税の見直しの4つに絞って解説をする。最重要となるのは所得制限の壁の撤廃となると思われるので、解説においても重きを置こうと思う。それ以外のものについては令和6年度の段階で発表されていたものや、一定以上の法人など対象が限られると思われるので簡単にだけ説明を使用と思う。

所得の壁の変更

今回の最重要論点である所得の壁の変更である。昨年行われた総選挙の影響を受けて国民民主党が主導する所得の壁の変更について税制改正大綱にも記された。そもそもここで言っている所得の壁とは何なのか。多くの人が103万円の壁という言葉を聞いたことがあるのではないだろうか。所得税がかかる・所得税法上の扶養となれない給与所得(給与の額面)の金額が103万円なのである。現行では103万円を超えると所得税法上の扶養となることができない。これを国民民主党は170万円程度まで引き上げるべきであると主張していた。税制改正大綱内では国民民主党の主張額まではいかなかったが123万円まで引き上げるという風な文言が加えられた。

 123万円の内訳をみると、基礎控除が現行の48万から58万円に10万円増額させ、給与所得控除についても現行の55万円の最低保障額を65万円に10万円増額される。

 基礎控除は合計所得が2350万円以下の全ての者に適用され、合計所得金額が2350万円を超える者については50万円置きに、48万円・32万円・16万円と基礎控除額が減額される仕組みとなっている。合計所得金額が2500万円を超える者について控除額は0となる。

 この基礎控除については給与所得の者だけでなく、個人事業主や年金受給者全ての者に適用されることになるため、減税の影響は大きいと考えられる。

 もう一つが給与所得控除である。給与所得控除は給与所得(給与として所得を得ている者)にしか効果がないものである。給与所得を得ている者については、最低保障額が65万円に引き上げられる。結果として、基礎控除58万円と給与所得控除の最低保障額65万円の123万円が新しい所得の壁となると税制改正大綱上は読み取れる。今まで扶養の範囲内として103万円で抑えていた場合には、123万円まで稼いでも所得税の扶養の範囲内に収まることができることになるということである。この所得の壁は大学生などのバイトにも適用されるため、大学生や高校生でバイトをしている子供を抱えている方にとっても少し安心できる材料になるのではないだろうか。現行では103万円を超えた時点で扶養から外れるために、バイトをしている子供が知らない間に103万円を超えていて扶養が外れて税金が高くなってしまったという経験を持つ方もいるのではないだろうか。そこの部分について改正により緩和されるのである。さらに今回の税制改正大綱では19歳以上23歳未満の親族(大学生世代)の所得についてはさらに優遇される所得制限となっている。19歳以上23歳未満の親族の扶養控除は63万円と他の扶養控除と比べて額が大きい。そのため、19歳以上23歳未満の子供がいる方にとっては所得税の扶養範囲内に収まっていることでかなり大きい所得控除を得られていた。ただその年代(おそらく大学などで一番バイトをしているであろう年代)は103万円以上を稼いでしまうことも多いのではないだろうか。現行では103万円を超えた段階で63万円が0円となってしまう制度になっている。ここの部分についても大きな改正が予定されているのだ。

 それが特定親族特別控除(仮称)である。居住者が生計を一にする年齢19歳以上23歳未満の親族等(青色事業専従者を除く)で控除対象扶養親族(63万円の控除の対象になる者)に該当しないものを有する場合に適用されるものであり、内容としては今の配偶者特別控除と似た形になっている。年間123万円を超えても150万円までは63万円の控除が可能となり、150万円を超える部分から段階的に控除額が減っていき、180万円程度を超えると扶養控除額が0になるという形となってくるのだろう。このように19歳以上23歳未満の扶養控除が大きい年代にも所得制限の緩和がされるということのため、アルバイトなどで所得制限の壁を超える心配が少なくなるのではないだろうか。

 所得の壁の緩和の改正によって、現行と変わる部分が多く複雑なため、この制度が始まる当初は混乱することが多くなると思われる。通常国会で予算が通過したのちに正式な所得制限の壁が決まるのだろうが、いつからの適用になるかにもよるが早く決めて欲しいものだ。覚えなおさないといけないことが山の様に増えそうだと感じている。

子育て支援に関する政策税制

この税制改正については令和6年度の税制改正大綱に記されており、それが実施されることになると思われる。具体的に重要なのは2つあり、生命保険料控除の見直しと住宅ローン控除の見直しである。

①生命保険料控除の見直し

まず1つ目が生命保険料控除の見直しである。対象者としては、23歳未満の扶養親族を有する者で保険料控除の適用を受ける者である。内容としては、一般生命保険料控除の上限が現行の4万円から6万円に増えるというものである。

 生命保険料控除は、一般保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除の3種類にわかれており、このうちの一般保険料控除の金額のみが4万円から6万円に上限が引き上げられることになるのである。令和8年度以降の適用とされている。 

 この一般保険料控除の上限が見直されるが、全体の適用限度額は現行の12万円で変わらないのが不思議な部分である。つまり、現時点で生命保険料控除が上限の12万円に達している方については何の影響もないこととなるのだ。一体だれを対象とした見直しになるのか不思議だが、子育て世代の方は生命保険料を多く払っている傾向にあるために、このような見直しがされるのであろうが、全体の適用限度額も上げないと、効果を実感できる方はすくないのではないかと思われる。現時点で保険料控除が12万円に届いておらず、その原因が一般生命保険料の支払いが多くその他の保険料控除が少ない方にとっては有利に働くかもしれないが、対象者は多いが効果はあまり高くない税制改正になると考えられる。

②住宅ローン控除の見直し

そしてもう一つが住宅ローン控除の見直しである。これについても既にある住宅ローン控除の借入限度額の上限が、令和6年度に引き続き大きくなるというものである。対象者は、年齢40歳未満で配偶者を有する者、年齢40歳以上であって40歳未満の配偶者を有する者又は年齢19歳未満の扶養親族を有する者である。ややこしい書き方がされているが、自分自身か配偶者が40歳未満か19歳未満の子供がいれば対象となると思ってもらえればいい。

 具体的な内容としては、認定住宅・ZEH水準省エネ住宅・省エネ適合住宅に該当する住宅について住宅ローン控除を適用する場合の年末残高の限度額が、現行の金額よりも多くなるというものである。金額の違いについては図を見てもらいたい。

 認定住宅であれば最大5000万円までが借入限度額として認められることになるのだ。控除期間なども現行のままで行くと考えれば、最大で455万円の税額控除を受けることが可能となることになる。もし、住宅を建築・購入する予定がある40歳未満の方については、建築・購入の際にどの基準になるのかを工務店や仲介業者に確認をする方がいいだろう。認定住宅の為には申請なども必要になるため、住宅ローン控除を受けたい旨をしっかりと伝えるのがよいと思われる。また令和6年度から、新築・買取再販の場合には、これらの省エネ住宅に該当しないと住宅ローン控除を受けることができなくなっている点にも注意が必要である。

 住宅ローンについては子育て世代の方たちが家を建てるか買うかを悩む世代なのではないだろうか。そのため比較的生命保険料控除よりは効果が大きいものになると思われる。住宅ローン控除の注意点としては、控除限度額の全額を受けようと思わないことだと思う。住宅ローン控除の限度額は増えているが、自分自身の収入面と返済面の両方から考えてどれくらいの金額の家にするのが良いかを検討することが欠かせない。たとえば、認定住宅の5,000万円の上限額を13年間受け続けようと思うと、住宅の借入に必要な金額は約8000万円になるのではないかと思われる。35年返済で考えると年間250万円程度の返済をすることになる月に直すと約20万円が住宅ローンの返済となる。455万円の税額控除を満額受けるために、それだけの借入が必要かどうか、もしくは可能かどうかを考える必要があるのではないだろうか。住宅ローンは返済期間がかなり長い借入になる分、しっかりとライフプランニングをして考えないと、あとあと苦労することになる。目先の税額控除だけでなく、将来までを考えて行う必要がある税制のため非常に難しい。

個人型確定拠出年金の強化

個人型確定拠出年金いわゆるiDecoの掛け金の強化である。特に強化されるのが、第二号被保険者で企業年金に未加入の者で個人型確定拠出年金をかけている者ではないだろうか。全ての掛け金の者が強化されることにはなるのだが、第一号被保険者については現行の月6.8万円から月7.5万円と7,000円増額される程度にとどまる。

第二号被保険者のうち企業年金に加入している者は、企業型DCの事業主掛金額との合計額が62,000円へと増額される。これも現行は55,000円が限度のため7,000円の増額となる。そして第二号被保険者で企業年金に加入していない者については、現行の23,000円から62,000円と39,000円も増額されることになるのである。年間の控除額が最大276,000円から744,000円と2.5倍以上控除上限が増えることになる。これはかなりの税額控除が期待される改正になるのではないかと個人的には思っている。

個人型確定拠出年金は掛け金の全額が所得控除され、さらに60歳以降で年金として受け取る際の発生している運用益については全額非課税となり、さらに給付時には公的年金控除もしくは退職所得控除を受けることが制度である。

自分の年金は自分で稼げということだと思うが、所得控除も受けつつ運用益は非課税となり、もらうときも税制優遇を受けることができると考えるとかなりお得な制度となる。しかし、この部分について掛け金の増額がされるが、そもそも収入がなければ掛け金を増やすことができないというのがデメリットである。

個人型確定拠出年金は60歳にならないと受け取ることができないため、掛け金を途中でもらうことができない。つまり、かけている途中にお金が無くなっても解約をして資金を得ることができないという最大のデメリットがある。そのため、今回のこの改正はかなり金持ち優遇税制と言わざるを得ないのではないかと思う。

資金が潤沢にある方については、改正で個人型確定拠出年金が増額された場合には、掛け金を増額することをおすすめする。かけておいて損はない税制ではないかと思う。

個人型確定拠出年金の強化

最後は法人税の見直しである。これは防衛費の捻出のために新設されようとしている税制であり、納税者からすると改悪の税制である。簡単に説明すると法人税の増税である。法人税の増税として防衛特別法人税(仮称)という物を新設しようとされている。この内容としては、対象は全ての法人であり、各事業年度の課税標準法人税額に4%の税率を乗じて計算するとされている。この制度には基礎控除額的なものが設定されておりその額は500万円とされている。よって500万円を超える部分について4%の税率をかけられることになるのだ。

 では、金額が500万円を超えるかというと法人税額が500万円を超えれば課されるとおもってもらえればいいと思う。法人税額が500万円になるためには、法人税の計算の基礎となる所得(ざっくり考えると税前利益)が2400万円くらいのラインとなると思われる。税前利益で2400万円ある法人は、この増税がかかってくる可能性あるという改正であると思ってもらえれば十分だと思う。法人税額が500万円に達しない法人については余り関係のない増税となるだろう。

まとめ

今回は令和7年度税制改正大綱の中身について重要となりそうな部分をピックアップして解説してきた。改正大綱の中身はこれ以外にも膨大にある。今回の改正大綱の中で一番大きな影響があるのは間違いなく所得の壁の変更の部分ではないかと思う。今後の国会の中でどのように話が進み制限がどの金額になるのかは全く読めない状況である。しかし、今後において最も重要になってくるのは間違いないと考えている。決まり次第コラムとして掲載していければと思っている。税理士としても覚えなおさなければならないことが山の様に増えるように感じている。それほど影響は大きいのではないだろうか

最後になりましたが、私たちトラストコンサルティング(東憲吾税理士事務所)は伊賀市を中心にコンサルティングに特化した税理士事務所として活動しています。税務申告などの税理士業務だけではなく、経営コンサルティングや自計化、経営会議への参加など経営者の皆さまの悩み事を解決するための業務を主として行っています。またクラウド会計の導入による試算表の早期化や資金繰り支援・銀行融資支援など経営・会計のことで悩んでいることなどがあれば一度お問い合わせください。もちろん今回の税制改正に関する税務関係での問い合わせも受け付けています。

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