
目次
初めに
今回のコラムでは、税理士報酬について考えていきたいと思います。皆さんも顧問税理士を考えるときに、重要視する部分は何ですか?税理士の人柄ですか?税理士業務の内容ですか?それとも税理士の費用、税理士報酬ですか?
経営者の方によっては、さまざまかと思います。今回はその中でも税理士報酬について焦点を当てて考えていこうと思います。私たちの税理士報酬に対する考え方についても書いていこうと思っていますので、税理士を変えようと思っている方や顧問税理士を探している方は参考にしてもらえるとありがたいです。
税理士報酬の相場はあるのか
まずは、税理士報酬の相場についてです。よく税理士紹介サービスのHPを見ていると「税理士報酬の相場」や「税理士適正価格」などという項目を目にすると思います。そこで述べられている相場が果たして本当なのかは疑問を持ちます。
税理士報酬については、以前は法律によって「税理士報酬規程」という形で税理士報酬の最高限度額を制限されていました。しかし、平成14年の税理士法改正にともない「税理士報酬規程」が廃止されたことで、税理士報酬の自由化が進み、様々なサービス・様々な報酬設定を行う税理士が増えることになりました。「税理士報酬規程」の廃止にともなって、税理士業界の中でも差別化が大きく進んだのではないかと思われます。高額報酬・高サービスを売りにする税理士事務所もあれば、低報酬・低サービスを売りにする税理士事務所もあるのではないでしょうか。
そのような状態の中で税理士報酬の相場というのは非常に難しい考え方になると思います。よくある「税理士報酬の相場」や「税理士適正価格」では売上高を基準に税理士報酬の相場が設定されていることがありますが、この相場感についてはあまり信用しない方がいいと思います。私たちの考えとしては、「税理士報酬の相場」というものは無いと思っています。
例えるなら財布と同じです。財布を買う時に相場を聞かれてどう答えますか?100均の100円の財布もあれば、ルイヴィトンの20万円の財布もあるでしょう。果たして、相場はいくらになるでしょうか?
おそらく使い方によって変わるのではないでしょうか。もちろん、手持ちの資金にもよりますが、良いものを長く使いたいというのであれば、少し高いお金を出してでも高い財布を買うのではないでしょうか。逆に、ぼろくなったら直ぐに買い替えるというのではあれば、高いものを買わずに安いものを買いまわすのではないでしょうか。
税理士報酬の考え方もこれと同じだと思います。経営者のみなさん自身が何に重きを置いているかによって税理士報酬の相場は異なるのです。
例えば、記帳代行と決算の申告だけをしてくれればいいと思うのであれば、税理士報酬の相場や税理士適正価格くらいの金額になると思います。しかし、もっと経営の中身をみてもらいたい・資金繰りについて一緒に考えてもらいたい・銀行融資をとりたいと思うのであれば、税理士報酬の相場の金額では引き受けてくれないでしょう。相場の倍以上の報酬がかかると思います。しかし、それだけの報酬を支払う価値があるのではないでしょうか。
みなさんの事業でも同じだと思います。より高品質・高付加価値のサービスをする場合には、相場といわれている金額よりも高くなるのではないでしょうか。税理士報酬も同じなのです。
このように税理士報酬という考え方は、「相場」という言葉だけでは説明できないほど範囲が広いものになっています。税理士報酬が安いところにしたら、何もしてくれない。そりゃそうです。報酬が安いのですから、すればするだけ赤字になるのですからしてくれなくて当たり前なのです。
ただし、注意としては、高いから良いというわけでもないということです。報酬が安くても良くしてくれる税理士の方もいますし、高くても何もしてくれない税理士の方もいます。経営者の自身との相性も重要になってくるでしょう。
そこの見極めは、相場とは別問題で非常に重要だと思いますが、「相場」という考え方だけで税理士を決めるのは、あまりいいとは言えないことだけ覚えておいてもらえればと思います。
税理士報酬の考え方
相場の金額には、あまり意味がないということを前章で考えてきました。では、税理士報酬とはどのように考えればいいのかを、この章で考えていこうと思います。
税理士報酬には2つの考え方があると思います。1つは税理士報酬を「経費(費用)」とみる考え方。もう1つは税理士報酬を「投資」とみる考え方です。この考え方の違いでも、明らかに税理士報酬の金額に違いがでることはわかると思います。
まず、税理士報酬を「費用」と考えている場合には、どのように税理士報酬を考えるかです。税理士報酬を「費用」と考えている場合には、おそらく税理士報酬がなるべく安いところにしようという様に考えるのではないでしょうか。税理士事務所にしてもらいたい業務としては、記帳代行を丸投げすることや、申告業務さえしてもらえればいい。そのように考えるのであれば、税理士報酬は「費用」というような捉え方になると思います。この考え方であれば、なるべく安い税理士事務所をさがすのがいいでしょう。記帳代行を丸投げして申告してもらうだけでいいのであれば、どこの事務所もそんなにかわることはないと思います。
次に、税理士報酬を「投資」と考える場合です。この場合には、税理士報酬の範囲はかなり広くなると思います。その理由が、やってもらいたい内容によって変わるからです。税理士報酬を「投資」と考えている方は、税理士事務所に申告だけでなく、節税などの税務面のアドバイス、税務調査への対応・対策のような税理士本来の業務内容のほかに、経営のアドバイスや、資金繰りの支援・銀行融資の支援などの税理士業務以外の部分で税理士が強い分野についても協力してほしいと考えているのではないでしょうか。
税理士事務所の業務は税務申告。これは当たり前です。しかし、税理士のできる業務というのはかなり範囲としては広くなります。税理士は経営者の最も身近なパートナーとして、ほとんどのアンケート調査で上位に占めてくる存在となっています。自社の企業の成長・発展のために協力してほしい「経営者のパートナー」となる税理士に対する報酬は間違いなく「投資」といえるのではないでしょうか。
この「費用」と考えるか「投資」と考えるかで税理士報酬は何倍も何十倍も変わってくるでしょう。それだけの価値があるのであれば払おうという気になると思います。つまり「税理士報酬の相場」なんて関係なくなるのではないでしょうか。
例えば、年商1億円くらいの企業であれば、探せば月額数万円で顧問してくれる税理士事務所もあると思います。しかし、何十万という税理士報酬になる税理士事務所もあるでしょう。その違いは、何を行ってくれるか。ここの部分が大きく占めていると思います。
税理士事務所は何をしてくれるのか
前2つの章で、税理士報酬の相場と税理士報酬の考え方について考えてきました。では、税理士報酬の違いでどれくらいしてくれる内容が変わるのかを考えてみましょう。
※あくまで想像です。全ての事務所がこのようなわけではありませんので、しっかりと税理士事務所と話しあって決めてください。
※前提として、年商が1億円の企業の場合を想定しています。
①月額1万円~3万円
まず、一番「適正税理士価格」などでも多い月額1万円~3万円の税理士報酬の場合、税理士事務所は何をしてくれるでしょうか。おそらく、記帳代行の丸投げと申告がメインだと思います。税理士の先生と会うのは決算期に1度、もしくは1回も会わないという方も多いでしょう。記帳代行で丸投げしていても、月次試算表がでてくるのも遅いそのような所もあるのではないでしょうか。
しかし、よく考えると仕方がないことだと思います。月1万~3万円の報酬であれば、10件あっても月10万円~30万円の売上にしかならないのです。おそらく、このくらいの低い税理士報酬を定めている事務所の場合は、数をとるしか売上を上げる方法はなくなりますから、必然と顧問先数が増えることになります。すると時間は有限ですから、1つの顧問先にかけることができる時間も少なくなってしまうのです。だから何もしてくれなくなってしまう。というより、何もできなくなってしまうという方が正しいかもしれません。このような状態が月額1万円~3万円くらいではないでしょうか
②月額3万円~5万円
このくらいになってくると、税務面についてはある程度のアドバイスや記帳代行の場合には、月次試算表の作成も早くなるのではないでしょうか。これくらいの顧問料をもらえるようになると、少ない顧問先でも売上を確保できることから、税理士に時間ができるためです。税理士に時間ができるということは、顧問先のことを考えることができるようになるということになります。数カ月に1度くらい税務相談にも乗ってもらえるようになるのが、これくらいの税理士報酬からではないでしょうか。このラインが最低限の税務関係を行ってもらいたいのであれば必要となる報酬になってくると思います。
③月額5万円~7万円
年商1億円の企業でこれくらいの税理士報酬となってくると、充分なアドバイスを受けることができると思います。税理士との面談も月1度程度になり、さらに記帳代行の場合には月次試算表のスピードはかなり速くなるでしょう。それもそのはずで、1万円~3万円の約2倍の金額なので、顧問先数は2分の1で同じ売上になるのです。つまり、同じ売上であっても顧問先数が少ないため、1つの顧問先に使うことができる時間が増えるということになります。
この報酬くらいになってくると、自計化を進めてくる税理士事務所も多くなってくると思います。自計化することで会計部分を内製化でき、税理士は税務だけにとどまらず、経営面なども見ることができるようになってくるからです。税理士の時間に余裕ができるということは、顧問先へのサポートを厚くできるということなので、顧問先の方にとっては企業の成長・発展のために税理士を使うことができるようになってきます。ここくらいから、税理士は「経営者のパートナー」として、税理士報酬を「投資」として考えられるようになってくるのではないでしょうか。ここまでくると税理士にとっても、プレッシャーになりますので顧問先に対するサポートはかなり充実したものになってくると思います。
④月額7万円~
年商1億円の企業でこれくらいの税理士報酬を払っていれば、税務業務だけにとどまらず、経営面のサポートも厚く行ってくれるのではないでしょうか。間違いなく経営者の右腕的存在となるでしょう。資金繰りや融資などの資料作成に時間がかかる部分にも税理士が手を回すことができるようになってきますので、税理士というより外部の経営パートナー・外部の財務部長のような役割のようになってくると思います。そのように考えるのであれば、かなり安いのではないでしょうか。
皆さんの会社で財部部長を雇うとなると、どのくらい払わないといけないですか?必要ないという方もおられると思いますが、財務部長のような幹部クラスとなると、少なくても月40万円~必要になるのではないでしょうか。社会保険も合わせると60万円近くになるでしょう。そのような幹部クラスが、新卒の初任給よりも安い月額で手に入れることができると思うと、税理士報酬にもっと投資してもいいと思うのではないでしょうか?
せっかく顧問税理士を付けるのであれば、使わないと損です。使わないと損ですが、それなりの報酬を払わないと使えないのも事実です。税理士報酬をどのようにとらえるか、税理士をどのようにとらえるかは、みなさんそれぞれの考え方次第だと思います。
自社にとって、自分自身にとっていいと思う捉え方をしてもらうのがいいでしょう。安いから悪いわけでもありません。高いから良いわけでもありません。顧問税理士との相性もあると思います。
ただ、「相場」という考え方だけで税理士報酬を考えないでもらえると一番ありがたいと思います。税理士に何をしてもらいたいか、どこまでしてもらいたいかによって税理士報酬は天と地ほどの差がでてくることになります。してもらいたいことと報酬が自分自身にとって価値があるかで判断してもらうのがいいでしょう。