
目次
初めに
今回のコラムでは節税をメインに扱っていこうと思います。皆さん節税と聞くと何を浮かべますか?よく聞くような節税と言えば、中古の高級車を買ったり、生命保険に入ったり、船を買ったり、、、ではないでしょうか?確かにこれらも節税としてよく耳にするものばかりだと思います。
しかし、これらの節税は全ていつ税制改正が行われるかわからないものばかりです。現に生命保険などの保険関係については、よく税制改正が行われ引き締められることが多いように思います。そこで今回は、国が中小企業のために行っている3つの共済制度(三共済)で節税を考えていこうと思います。この三共済については国が中小企業のために主導している制度となっていますので、税制改正が行われ使えなくなるリスクも少ないと考えていいでしょう。今回は三共済について、加入条件や金額などから解説を行っていきます。
三共済とは
そもそも三共済とは何でしょうか?おそらく聞いたことがある方もおられるのではないでしょうか?三共済とは、小規模企業共済・中小企業倒産防止共済・中小企業退職金共済制度の3つを言います。文字からも分かるように全て小規模事業者・中小企業事業者向けの制度になっています。
それでは早速、それぞれの三共済の内容についてみていきましょう。加入条件や注意点など細かいことを説明しだすときりがないので、重要な部分だけを抜粋しています。全ての説明のあとにそれぞれのHPを載せておきますので、細かい要件や注意点等については各自で確認をしてください。
①小規模企業共済
まずは、小規模企業共済です。これは、小規模・中小企業の事業の廃止・退職後の生活安定資金を積み立てて準備するための共済制度です。イメージとしては、個人事業主や中小企業の役員の方の退職金だと思ってください。所得税を節税しながら退職金を貯めましょう。こんな感じのイメージに思ってもらえるといいと思います。
⑴加入資格
小規模企業共済の加入資格は①個人事業主及び共同経営者または、登記されている会社役員であるか②常時使用する従業員数の2つの条件があります。
①の条件はわかりやすいと思います。個人事業主か個人事業主の家族(2名まで)や、法人登記されている役員(履歴事項全部証明書に記載されている役員)であることです。
②の従業員数については業種によって様々です。小売業・卸売業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)等は5人以下であること、製造業・建設業・農業・運輸業・宿泊業・娯楽業等は20人以下であることです。この常時使用する従業員には、パート・アルバイト・事業主・会社役員はカウントしませんので、それらを除いた人数がそれぞれの人数以下であれば大丈夫です。
また、これらの条件は加入する際の条件ですので加入時に満たしていれば、規模が大きくなった後であっても続けることができます。そのため要件に該当するのであれば、早めに加入しておくことをおススメします。
⑵掛け金と控除額
小規模事業共済の掛金は月額1,000円~70,000円の範囲内であれば500円単位で自由に設定することができます。加入後も金額の変更はいつでもできますので、事業規模や余裕資金に応じて変更してもらえればいいと思います。
控除については、小規模企業共済等掛金控除として所得税の課税対象所得から所得控除されます。最大で84万円の所得控除をすることができるのです。ただし、所得税の控除になりますので、法人の方については費用を会社負担とすることはできませんので、一度役員報酬という形で個人に給料を払ってから掛けてもらうということになります。
小規模企業共済は個人型確定拠出年金と併用ができますので、個人事業主の方であれば最大で1,656,000円(小規模84万円+確定拠出81万6千円)所得控除することができるのです。非常に大きな所得控除になります。 また、小規模企業共済でかけていた部分については、廃業した際や退職した際に受け取ることができ、一括で受け取った場合には全額が退職所得の対象となりますので、全額退職所得控除の対象となりますので、掛金の納付月数が長いほどお得になる制度になっています。そのため大きな金額を掛けることができないとしても、早めに加入しておくことで控除額を大きくすることができます。可能なタイミングで加入しておきましょう。
例えば、毎月7万円を40年間かけていた場合には、もらえる金額は3,360万円となりますが、退職所得控除額は2,200万円となります。さらに課税対象となるのはそのうちの2分の1ですので、580万円についてのみ課税対象となります。掛けているときも節税ができ、さらにもらう時にも節税ができるという非常に優れた制度となっています。
※退職所得控除の計算は40万円×納付年数(20年)+70万円×納付年数(20年を超える年数)になります。
早めに加入しておくことで、納付年数の部分が大きくなります。
⑶その他
さらに、小規模企業共済は納付済掛金額(最高2,000万円)の範囲内で貸付を受けることができます。事業の都合で資金が必要となった場合や、生活に困ったときには貸付として受けることもできるのです。返済は必要となりますが、節税で貯めたお金で貸付も受けることができると考えると非常に大きな制度になるのではないでしょうか。
⑷注意点
注意点もいくつかあります。
- 個人事業主の方で他から給料をもらっている方(社会保険がかけられている)については加入できないので気を付けてください。給料をもらわなくなったタイミングなどを見計らって加入してもらうのがいいと思います。
- 積立期間が6カ月未満で、廃業・死亡した場合には掛け捨てとなってしまいます。なるべく早いときから入っておくのがいいでしょう。
- 積立期間が12カ月未満で解約を行う場合には掛け捨てとなってしまいます。上記の場合は除かれます。
- 積立期間が240カ月未満の場合で任意解約される場合には、掛金の合計を下回ってしまいます。
その他にも注意点がありますので、注意してください。詳しくは小規模企業共済のHPから確認してもらうのがいいでしょう。受取の事由についても、様々なのでHPから確認をしてください。
小規模事業共済HP→小規模企業共済とは | 共済制度 | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
②中小企業退職金共済
次は中小企業退職金共済制度です。これは国の従業員退職金制度といわれており、退職金を準備することが大変な中小企業に向けて従業員の退職金を積み立てるイメージになります。この制度に加入することで従業員の方は確実に退職金をもらえますので、従業員にとっては安心な制度となりますし、中小企業者にとっても少ない金額からかけることができますので、資金面でも安心できる制度なっています。従業員の方からすると退職金をもらえることになるので、モチベーションや雇用安定にもつながる可能性がある制度となります。
⑴加入条件
⒈加入できる企業
加入条件としては、①の小規模企業共済よりも範囲が広いです。業種によって条件は変わるのですが、資本金または従業員数が加入条件となってきます。
- 建設業・製造業の場合、常用従業員数300人以下または、資本金3億円以下
- 卸売業の場合、常用従業員数100人以下または、資本金1億円以下
- サービス業の場合は、常用従業員数100人以下または、資本金5,000万円以下
のようになっています。かなり範囲としては広く、中小企業であれば大抵あてはまるのではないでしょうか。
⒉加入させる従業員
加入させる従業員については原則全員加入になります。なので、特定の人だけを対象に加入させるということはできません。なお、短時間労働者・期間を定めて雇用される者・試用期間の者などについては、加入させなくてもよいとされています。
また、個人事業主及び法人企業の役員、建退共などの他の退職金共済制度に加入している者については、加入することができませんので注意してください。
⑵掛金額と控除額
掛金額については、16種類の中から従業員ごとに選択をすることができます。16種類の中には、5,000円~10,000円までは1,000円単位ごとに、10,000円~30,000円までは2,000円単位ごとに選択できる金額が設定されています。
掛金額については、全額経費として損金算入することができますので、節税としても使うことができる制度になっています。従業員の退職金を経費としながら積み立てることができるというイメージでいいと思います。
掛金については全額事業者負担となりますが、掛金をかけているだけで資金を準備する必要もありませんし、退職金の受け取りは従業員本人に行ってもらうので、掛け金をかける以外は何もしなくていいというのもメリットになるのではないでしょうか。
⑶退職金額
退職金額は、掛け金額と納付月数に応じた金額に+αされた金額が退職金として、従業員の方に支給されます。注意点としては、掛け金の納付期間が12カ月未満の場合には退職金は支給されません。1年以上掛金を掛けている必要があるので従業員の方への説明などに注意してください。
⑷退職金規定
中退共を行う場合には、合理的で明確な労働条件を確立するという観点から退職金規定を設けておくことが望ましいと思いますので、作成するようにしましょう。退職金規定の例についても中退共HPで確認することができるので、自社用にアレンジして作成してもらえればいいと思います。
他の詳細については、中退共のHPを参照してもらうのがいいでしょう。
中退共HP→中小企業退職金共済事業本部(中退共)
③経営セーフティー共済(中小企業倒産防止共済)
3つ目は、中小企業倒産防止共済です。倒産防というやつですね。これも中小企業のために行われている共済の1つです。これは、中小企業の取引先が倒産等をした際に売掛金の回収が困難となった場合に貸付を受けることができる共済制度になっています。
⑴加入条件
加入条件については、中小企業または個人事業主で1年以上引き続き事業を行っている事業者で、従業員数または、資本金の要件をみたせば加入することができます。従業員数・資本金の要件については中退共と非常に似ていますので、ここでは省略します。1年以上事業を行っている中小企業であれば、大抵は該当することになるでしょう。
※注意点として、個人事業主の方は所得税を法人の方は法人税を滞納している場合には加入することができないので、加入する前に完済をしておきましょう。
⑵掛金額と控除額
掛金額については、月額5,000円~200,000円の範囲内であれば5,000円単位で自由に決めることができます。掛金額の総額が800万円になるまで積み立てることができ、掛金額の全額が経費として損金算入することができます。上限が800万円となっているので、800万円以上は掛けることができません。掛金の前納もできますので、最大で460万円まで経費として参入することができるのです。
そして、倒産防止共済の特長は取引先事業者などが倒産をして、売掛金の回収ができなくなった場合に、回収困難となった売掛金額と掛金総額の10倍に相当する金額のいずれか少ない金額まで貸付を受けることができるのです。あくまで、貸付なので返済をしなければならないのですが「無担保」「無保証人」「無利子」で貸付を受けることができます。返済期間は5年~7年(金額による)での均等返済となりますが、金融機関で借りるよりも圧倒的に有利な条件で貸付を受けることができるのです。
取引先の倒産により回収が不可能となった場合しかこの条件での貸付は受けることができませんが、有事の時に備えるという意味ではとてもいい方法なのではないでしょうか。新型コロナのような未曾有の事態がいつ起こるかはわかりません。地震なども考えられるでしょう、そのような取引先に何が起こるかわからないときなどにも対策できるのがこの制度になります。
そのような事態がおこるまで引き出せないのかと思われるかもしれませんが、解約をすることもできます。納付月数によって解約率が変わるのですが、40カ月以上の納付で任意解約でも100%返ってきます。
また、利息や返済条件は厳しくなりますが、取引先の倒産以外であっても掛金総額の一定の範囲内で貸付を受けることも可能です。
そのため、いざという時の対策としても使えますし、節税をしながら貯蓄もできると思ってもらっていいでしょう。解約のタイミングでは益金に算入されることになりますが、損失が多くなりそうなときなどのタイミングに合わせることで、比較的税金をかけずに解約をすることもできるでしょう。
⑶注意点
直近の改正により重要な注意点ができました。それは、倒産防止共済を解約後2年間は倒産防止共済に再加入しても経費として損金算入できなくなってしまいました。なので、解約してすぐにまた使うということはできなくなってしまったので、解約をするタイミングというのは非常に重要になってくると思います。
その他の注意点や詳細については経営セーフティー共済のHPで確認してもらうのがいいでしょう。
倒産防止共済→制度の概要 | 共済制度 | 独立行政法人 中小企業基盤整備機構
まとめ
以上の3つの制度が国で行っている共済制度になります。生命保険などの節税もいいですが、この国の共済制度を使用した節税も効果的だと思います。まずは、国の共済制度を使用して、それでも余裕資金がある場合に生命保険などの他の節税に手を出していけばいいのではないでしょうか。国が運営をしていることもある比較的安定的ですし、全額が損金算入もしくは所得控除になるという有利な条件となっています。ぜひ一度調べてみてもらうといいかもしれません。顧問税理士の方にも確認してみてもらうのがいいでしょう。
最後になりましたが、私たちトラストソルコンサルティング(東憲吾税理士事務所)は伊賀市を中心に中小企業の経営者の悩みを解決するためのコンサルティングを行っています。「税理士業務ができるコンサルタント」として、税理士業務にとどまらず、資金繰りの支援や経営の支援、自計化支援なども行っています。今回のコラムの内容である三共済についても、私たちの事務所で申し込むことが可能となっていますので、三共済に加入したいという方や三共済に興味があるという方はお問合せください。