伊賀市の税理士が教える|会計コラム~消費税の経理について~|税込経理と税抜経理どちらを選べばいいの??

2025.08.03
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初めに

 今回のコラムでは経理処理の1つである消費税の経理方法について考えたいと思います。

 消費税の経理処理の仕方については、ご存じの方も多いと思いますが、①税込経理②税抜経理の2つの方法のうちどちらかを選択することができます。また、頻繁の変更はよくないですが経理処理の仕方については変更することもできます

 では、この2つの経理処理の仕方は一体何が違うのか、どちらの経理処理の方法を選択する方がいいのか、この問題について今回のコラムで取り上げようと思います。

 皆さんの会社はどちらの経理方法で行っていますか?建設業のように経営事項審査(以下、経審という)などで申請をしている事業者については、税抜経理でしないといけないなどのように処理の方法が決められているところもあるかもしれません。消費税の経理処理の仕方について、それぞれのメリット・デメリットを交えて考えていきましょう。このコラムの内容については、私自身の考え方が含まれていますので、必ずしもこの方法でしないといけないと強要するわけではありませんので、最終的にどちらの方法で行うかはご自身で判断してください。

消費税の経理処理の違いについて

 まずは、それぞれの経理処理の仕方の違いについて説明していこうと思います。消費税の経理処理の仕方については決められているわけではなく、①税込経理②税抜経理のどちらを選んでいただいても構いません。ただし、期中から変えることはできませんので気を付けてください。変えるのであれば期首から変更する必要があります。

①税込経理

 1つ目は税込経理です。税込経理とは会計処理を行う際に消費税も含めた金額で処理する方法をいいます。そのため税込経理といいます。売上高などの消費税の課税対象となる全ての仕訳で消費税を含めて仕訳をします。

 例えば、100,000円(消費税10,000円)の売上の仕訳を想定すると、

 売掛金   110,000円 / 売上高   110,000円

 とこのような仕訳を行います。税込経理の特徴としては、シンプルでわかりやすいことだと思います。仕訳をする際には何も考えず純粋に合計の金額を記載するだけでだいたいの処理ができます。

②税抜経理

 もう1つが税抜経理です。税抜経理は会計処理を行う際に消費税を別枠で処理する方法を言います。つまり科目に記載される金額は税抜金額となるため税抜処理といいます。この処理を行う場合には、消費税の課税対象となる仕訳は消費税と分けて入力し、消費税の課税対象とならないものはそのままの金額で入力するなど少し会計処理を行うときに複雑になってしまいます。

 例えば、100,000円(消費税10,000円)の売上の仕訳を想定すると、

  売掛金 110,000円 /  売上高   100,000円

           /   仮受消費税  10,000円

とこのような仕訳になります。売掛金は消費税の課税対象にはならないので、そのままの金額110,000円を記載しますが、売上高は消費税の課税対象になりますので、科目の金額と別枠で消費税の金額を入力する必要があります。この時に使用する勘定科目が「仮受消費税」「仮払消費税」になります。

このように、税抜経理の特徴としては、貸方と借方で同じ行が同じ金額にならないことがあるということです。また消費税の課税対象かどうかも気にする必要があります。  

 ここでは、手書きでの想定で仕訳を記載しましたが、実際に会計ソフトを使用して入力する場合には税込経理の時と変わらない方法で入力すれば、会計ソフト側で自動的に税抜経理の仕訳処理をしてくれるので、実際の実務ではそこまで仕訳の方法については気にする必要はないでしょう。ただし、ほとんどの会計ソフトが消費税の課税対象かどうかで判断しているため、消費税の課税対象の判断については知っておく必要があります。

 以上のように、消費税の経理処理の方法については2通りがあり、それぞれの違いについて述べました。税込経理はシンプルなため比較的とっつきやすいのですが、税抜経理については複雑になるため、初めの間はやりにくいのが実情だと思います。

 会計ソフトに入力した後に数字が変わっていたりするので、あれ?と思ったり心配になる方も多いのではないでしょうか。税抜経理はここだけを見ると、面倒くさいだけのように思うかもしれませんが、ちゃんとメリットもあります。次の章では、それぞれのメリット・デメリットについて考えましょう。

税込経理・税抜経理のそれぞれのメリット・デメリット

 それでは、それぞれの消費税の経理処理方法についてメリット・デメリットを考えていきましょう。各事業所の状態などによってどちらが良いかということは必ずしも言えませんが、この章のメリット・デメリットも考慮してどちらの方法が良いかを考えてもらえればと思います。

①税込経理

⑴メリット

 まずは税込経理のメリットから行きましょう。税込経理のメリットはなんと言っても仕訳処理がシンプルでわかりやすいということです。すべて消費税込みの金額で考えることができるため、比較的仕訳を頭の中でも想像しやすいことが最大のメリットでしょう。初めて経理処理をするという方でも税込経理であればとっつきやすいのは間違いないです。全て消費税も含まれた金額で計上されていきますので、試算表などを見る際もわかりやすく、頭の中とのギャップが少ないのも税込経理の特徴かもしれません。

 税込経理のメリットは処理・仕訳のしやすさが一番といえるでしょう。

⑵デメリット

 では、税込経理のデメリットは何でしょう。税込経理のデメリットは、本来の利益が分かりにくくなることや消費税の支払額が想定しにくいことになります。

 まず、本来の利益がわかりにくくなるとは、すべての取引が消費税を含んで処理されているため、実際の消費税額が把握しにくく、利益の中にも消費税が含まれてしまっているという状況になってしまうことを指します。

 例えば、売上高が100,000円(消費税10,000円)で仕入高が50,000円(消費税5,000円)を想定してみましょう。これを仕訳で表すと、

 売掛金   110,000円 / 売上高   110,000円

 仕入高    55,000円/ 買掛金    55,000円

となります。この仕訳で行くと利益は売上-仕入になるので、55,000円になるのはわかると思いますが、この55,000円の中には消費税の支払いが5,000円含まれていることになります。つまり本来の利益は50,000円なのに、55,000円で決算書などには上がってくることになるのです。

この問題を解決するためには、

  租税公課 5,000円  / 未払消費税 5,000円

 とこのような仕訳を1本挟む必要がでてきてしますのです。決算の1回だけであれば消費税額の申告書からわかるため仕訳を組みやすいですが、これを毎月の月次で行うとなるとかなり複雑になってきます。これが税込経理のデメリットの1つです。

 そして、税込経理のデメリットのもう1つである、消費税の支払額が想定しにくいとはどのような意味か。利益が分かりにくくなることにも通じるのですが、すべての仕訳に消費税が含まれて仕訳として計上されるので、実際の消費税の支払額の想定が難しくなります。

 例えば先ほどの例を使うと。売上高110,000円から仕入高55,000円を引いた利益が55,000円になるのは簡単にわかると思いますが、このうちの消費税の支払額がいくらかということは計算しないとわからないということです。この例題だと仕訳数が少ないので5,000円と簡単に導き出すことができますが、これが何百何千仕訳とあり消費税の課税対象になるものやそうでないものが含まれてくると、支払額がいくらになるのかというのは簡単には計算ができないということになります。これが税込経理の大きなデメリットとなります。

 このように税込経理のデメリットは、本来の利益が分かりにくくなることや消費税支払額の把握がしにくいということになります。実際に税込経理から税抜経理に変更する際に税込経理の時は黒字だったのに、税抜経理にすると赤字になるということはよくあることです。税込経理は仕訳の時は簡単で分かりやすいという一方、利益や支払額など経営判断をする際には複雑でわかりにくいという性格を持っています。

 消費税の支払額は決算申告してもらえればでるからわからなくてもいいのでは?と思わる方もいると思いますが、決算申告で消費税が確定するのはどれくらいになりますか?早いところだと納付期限の1カ月前とかにはわかっているかもしれませんが、たいていが納付期限の2週間前くらい、ひどければ1週間前とかではないでしょうか?資金が潤沢にあり納付に問題がなければいいですが、納付期限の1週間前に税額を知らされても資金を集めるのが大変ではないでしょうか?あらかじめ予想ができていれば、早くから資金を集めることも可能になるはずです。

②税抜経理

⑴メリット

 続いて税抜経理のメリットに行きましょう。税抜経理のメリットは、税込経理のデメリットの反対で、利益が分かりやすいということと支払額の想定がしやすいことが大きいところになります。

 例で、売上高100,000円(消費税10,000円)と仕入高50,000円(消費税5,000円)を想定して表すとこのようになります。

 売掛金  110,000円 / 売上高 100,000円

           / 仮受消費税 10,000円

 仕入高  50,000円 /  買掛金 55,000円

 仮払消費税 5,000円 /

 この仕訳から考えると、利益は売上高-仕入高なので50,000円になります。この50,000円には消費税が含まれていないため本来の利益と等しくなります。このように税抜経理で行うことで本来の利益が見やすくなるということになります。

 さらに、もう1つのメリットである支払額がわかりやすいということについては、税抜経理の場合だと仮受消費税-仮払消費税で支払消費税額が想定できるようになるのです。この例でいくと仮受消費税が10,000円で仮払消費税が5,000円なので支払うべき消費税額は5,000円となります。これは、税込経理で計算した金額と同じではないでしょうか?このように税込経理と税抜経理どちらを選択しても結果としては同じ結果になりますので、処理方法によって税額に大きな差がでるということはありません。ただ、税抜経理の方が支払うべき消費税額が判断しやすいので、資金を準備するなどの対策も立てやすくなるのです。

 このように税抜経理のメリットは、数字としてみるときに本来の数字としてでてくるために経営判断に使うことができるということです。支払額がどのくらいになるのかを想定することができるので納税に備えることもできるため、決算になって焦る必要もなくなるのがメリットといえるでしょう。

⑵デメリット

 税抜経理のデメリットはなんと言っても仕訳が複雑になるということです。消費税の課税対象になるかどうかも慎重に判断する必要がありますし、仕訳の後に決算書などに現れる数字がすべて消費税を含まないため、思っている金額とズレが生じるということもデメリットになります。仕訳に慣れるために時間を要してしまうのが最大のデメリットといえるのが税抜経理でしょう。

 このように税抜経理は、仕訳が複雑ということが大きなデメリットです。会計ソフトを使用していれば、あまり気にすることなく仕訳処理自体はできると思いますが、仕組みを理解していないとどこが間違っているのかなどみつけるのが困難となります。

③私の考え

 ここまで消費税の経理処理のそれぞれについてメリット・デメリットを述べてきました。私自身の考えとしては、税抜経理をおすすめします。その理由について、これから少し述べようと思います。

⑴おすすめポイント1

 まずは、税抜経理のメリットである支払額が把握しやすいことです。なんといっても支払額が把握しやすいので、納税資金などの対策を立てやすいことです。税込経理では、ほとんどの事業者で決算書の作成が終わるまで消費税額がいくらくらいになるのかを知らされることはないと思います。だいたいが決算申告のギリギリくらいになって顧問税理士の方から消費税額は○○円になります。と告げられるのではないでしょうか。資金が豊富にある場合はいいですが、資金に乏しければ短期間で納税資金をかき集めるのは不可能に近いでしょう。このような心配のリスクが少なくなるのが税抜経理になります。

 顧問税理士をつけず自分自身で申告まで行うという方は税抜経理にするのは厳しいかもしれませんが、顧問税理士の方がいる方については税抜経理に変えてみてはいかがでしょうか?私の事務所では税抜経理を標準にしています。どうしても税込経理でしてほしいという方は別途対応しますが、基本的には税抜経理で処理を行っています。それも支払額が把握しやすく、早い段階で対策を立てるためです。

⑵おすすめポイント2

 おすすめポイントの2つ目も税抜経理のメリットでも説明しているものと同じになりますが、本来の利益がわかるということになります。多くの経営者の方が、利益を考えるときに消費税額を含めて考えているのではないでしょうか?そのため消費税の納税額が大きく感じてしまうのではないのかなと思います。つまり、消費税を含めて考えることで利益を大きいように感じてしまっているのです。そのために利益が出ていると勘違いして、誤った経営判断をしてしまい、納税の時には納税額が高く感じるという悪いループにはまっているような気がします。

 そこを税抜経理にすることで、消費税額を別枠で考えることで本来の利益が見え実際の利益がどのくらいでているのかを把握することができるのです。先ほどの例で考えると、利益が55,000円(うち消費税の支払が5,000円)と思うのと、利益が50,000円(消費税の支払が5,000)と思うのでは、全く違う考え方になるのではないでしょうか?今回の例では5,000円程度の差になりますが、これが10倍100倍と変わると全然違う結果になると思います。

 このように税込経理で行うと消費税が混同してしまい正確な利益がわからず間違った経営判断をしてしまう恐れがあるためです。税抜経理ではこのリスクを抑えることが可能となるので、おすすめポイントの2つ目としました。

⑶おすすめポイント3

 3つ目のおすすめポイントは、あらゆる処理を税抜で行うことになることです。それが面倒なのでは?と思われるかもしれません。確かにこの税抜で考えないといけないということは正直言うと面倒なことなのですが、利点もあります。

 例えば固定資産の判定です。みなさんもよくご存じの内容となるかもしれませんが、固定資産を購入した際の処理方法でありますよね?10万円未満の固定資産であれば消耗品費などの経費としていいとか、30万円未満の固定資産であれば少額特例(青色申告書を提出する一定の中小企業者に限る)で年間300万円まで一括で減価償却費として経費にできるなどあると思います。これらの○○円未満の判定は、消費税の経理処理に依存するのです。

 つまり、税込経理であれば税込金額で判定税抜経理であれば税抜金額で判定することになるのです。例えば30万円未満の判定を考えると、税込経理であれば税込30万円未満なので税込金額29万9999円(税抜27万2726円)のものが少額特例の対象になるのに対して、税抜経理であれば税抜29万9999円(税込32万9999円)のものが少額特例の対象となるのです。このように税抜経理で処理することで、固定資産の判定の対象となる金額が変わるのです。どうでしょうか。税込30万のものを購入したときに、税込経理では減価償却の対象となるのに対して、税抜経理では少額特例の対象として一括で減価償却費として経費計上ができるようになるのです。

 大した違いはないじゃないかと思われるかもしれませんが、税金がかかる黒字企業であれば大きな違いとなります。数字で表すと、税込30万円(耐用年数5年と仮定)のものを減価償却した場合には12カ月間有していたとしても経費にできるのは6万円になりますので、節税額としては6万円に税率(今回は20%と仮定)をかけた金額12,000円税金が少なくなることになりますが、税抜経理を採用し一括で減価償却できた場合には、30万円に税率をかけた金額60,000円税金が安くなるということになります。長い目で見た時の節税額は同じになるのですが、単発で見た時の節税額としては税抜経理で行っているときの方が得となる時が多くなる可能性があるのです。

 このように税抜経理では経理処理の際に複雑になるというデメリットの反面、メリットも多く存在しています。あくまで私個人の意見ですが、このような理由から税抜経理を採用する方が、経営面・節税面においても有利な時が多いように感じます。確かにご自身1人で入力から申告まで行っている場合には難しい部分もあるかもしれませんが、顧問税理士の方がいる事業者の方などについては、なるべく税抜経理でしてもらうのがいいのではないでしょうか。各事業所によって様々の事情があると思いますので顧問税理士の方と相談しながら考えてもらえればと思います。

 特に建設業の事業者の方で経審を出す場合は、全て税抜経理に書き直す必要がでてきますので、はじめから税抜経理で行うことをおすすめします。税込経理の資料を税抜に直すのは難しく、時間がかかってしまうため、税抜経理であらかじめ処理をするようにしましょう。

まとめ

 今回のコラムでは消費税の経理処理の方法について考えてきました。消費税の経理処理には2種類ありますが、どちらを使用するかは選択が自由です。また変更することも可能です。このコラムを読んで、自身の事業者はどちらの方があっているのか、どちらのメリットの方が効果ありそうかを考えてもらい今後の事業経営につなげてもらえれば幸いです。顧問税理士がいる方については、税理士の方と相談していただいて決めてもらうのがいいでしょう。おそらくどちらの方法で依頼しても受けてもらえるはずです。

 最後になりましたが、私たちトラストコンサルティング/東憲吾税理士事務所伊賀市を中心にコンサルティングに特化した税理士事務所として活動しています。税務申告などの税理士業務だけではなく、経営コンサルティングや自計化支援、経営会議への参加など経営者の皆さまの悩み事を解決するための業務を主として行っています。詳しい内容はHPのそれぞれのコンサルティングのページを見てください。また、私たちの事務所ではクラウド会計ソフト「freee」を標準採用しています。クラウド会計の導入に興味がある方・導入したけれどうまく運用がいっていないという方は一度お問い合わせください。

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