
目次
初めに
今回のコラムでは、資本的支出と修繕費について考えていきたいと思います。この資本的支出と修繕費の経理処理の違いは非常に重要となっています。特に税務調査でも指摘される部分でもありますし、税務調査で否認を受けた場合にはダメージも大きくなる部分でもあります。ただ、資本的支出となるのか修繕費となるのかの判断は複雑であるため、どちらに該当するのかと悩まれる方も多いのではないでしょうか。
そんな資本的支出と修繕費の違いやどちらに該当するのかについて、今回のコラムから何回かにわけて説明していきますので、一緒に考えていきましょう。
資本的支出と修繕費の意義
まずは、資本的支出と修繕費の意義についてそれぞれ見ていきましょう。
①資本的支出の意義
はじめに資本的支出の意義から見ていきましょう。資本的支出の意義については、法人税法施行令と法人税法基本通達に記載がありますので、それぞれ確認しましょう。
⒈法人税法施行令
資本的支出の意義については、法人税法施行令132条に記載があります。
法人税法施行令132条の条文には、
内国法人が、修理、改良その他いずれの名義をもつてするかを問わず(※1)、その有する固定資産について支出する金額で次に掲げる金額に該当するもの(そのいずれにも該当する場合には、いずれか多い金額)は、その内国法人のその支出する日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない(※2)。
一 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額
二 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額
このように記載されています。条文の内容と要件2つが記載されています。
内容について少し簡単に説明しましょう。
⑴※1の部分
この部分については、「いずれの名義をもってするかを問わず」と書かれています。どういう意味かというと「修繕費」という名目であっても、この規定に該当すれば「資本的支出」となるという意味です。よって、名前で判断するのではなく内容(本質)で判断することになります。
⑵※2の部分
この部分は、「損金の額に算入しない」となっていますので、経費としては認められないということです。つまり、資産計上をしてくださいということになります(資産計上だけでなく別表調整でも可能)。 要件についても2つ記載されていますが、この部分についての条文での判断は難しいため通達の方で判断してもらうのがいいでしょう。
⒉法人税法基本通達
法人税法基本通達7-8-1が、資本的支出に関する通達になり、そこにはこのように記載されています。
法人税法基本通達7-8-1
法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となるのであるから、例えば次に掲げるような金額は、原則として資本的支出に該当する。
(1) 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用(※1)の額
(2) 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用(※2)の額
(3) 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分(※3)の金額
このように例も記載されています。例の部分から読み取ることができるのは、
⑴※1の部分
物理的に付加し部分にかかる費用というのは、機能向上になるものととらえてもらっていいでしょう。ただし、建物の増築や構築物の拡張・延長については、そもそも建物の取得となるため、資本的支出になります。
⑵※2の部分
改造または改装にかかる費用に該当するのであれば、資本的支出になると思ってもらっていいでしょう。
⑶※3の部分
ここの捉え方が少し難しいのですが、通常の維持管理として行う場合(本来なら全額修繕費にできる場合)に、この通常の維持管理にかかる費用を超える部分については資本的支出になると捉えます。
例えば、機械の部品を交換する場合に、交換前の部品よりも性能の良い部品に取り換える場合などが想定されます。交換前の部品を同じものに取り換える場合には、通常の維持管理として修繕費とできますが、性能の良い部品に変えた場合には、通常の交換にかかる費用を超える部分については、資本的支出ととらえるのです。
ここまでが資本的支出の意義になります。非常に複雑ですよね。資本的支出に該当するものは、①性能が向上するもの②改造・改装になるもの③従前のものから性能の良いものに変えるもの、この感じで覚えてもらうのがいいでしょう。
どのようなものが資本的支出になるのかの例については次回以降のコラムで見ていきましょう。
②修繕費の意義
続いて修繕費の意義を見ていきましょう。
修繕費についても法人税法基本通達7-8-2でどのようなものが修繕費と考えられるのか記載されています。では、法人税法基本通達7-8-2にはどのように記載されているのでしょうか。
法人税法基本通達7-8-2
法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため(※1)、又はき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分(※2)の金額が修繕費となるのであるが、次に掲げるような金額は、修繕費に該当する。
このように記載されています。この通達には大きく分けて2つのことが記載されているので、それぞれ見てみましょう。
⑴※1の部分
まずは前段の※1の部分です。この部分で記載されていることは、「通常の維持管理のための費用」については修繕費となるということが書かれています。
「通常の維持管理ための費用」とは一体何をさしているのでしょうか。
それは、固定資産を継続して使用するために必要な維持補修にかかるものを指しています。イメージとしては、固定資産を使用するために繰り返して補修するものや、日常的に補修をすることが想定されているものと思ってください。短い言葉でまとめると「反復性」と「予測可能性」があるかどうかということになります。
「反復性」とは何度も繰り返して行う必要があるようなもの。例えば機械の点検や清掃・メンテナンスなどが該当するでしょう。
「予測可能性」とは、一定期間で必ず必要となるものと思ってもらえばいいでしょう。例えば車検のように何年間に1回とあらかじめ決まっているものや、周期的に行っている場合などが該当するでしょう。
また「通常の維持管理のための費用」には、「反復性」「予測可能性」の他に、法令などの改正に伴い従前どおりに使用し続けていくうえで必要な費用についても修繕費として認められます。使用を続ける上で法令上の義務を満たすために要した費用です。例えば、法令の改正により制御装置をつけなければ使うことができなくなった場合の、制御装置の設置にかかる費用などです。
⑵※2の部分
そして後段部分が「き損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分」です。これはイメージとしては、元通りに直しただけと思ってもらえればいいでしょう。
壊れたものを前の状態に戻しただけであれば金額の多寡にかかわらず全額修繕費としてもよいとされています。ただし、このただ元の状態に戻しただけということを証明するのが難しいので、修繕前・修繕後の写真を残しておきましょう。工務店などの修繕を頼むところに頼んでおけばしてくれると思います。
ここまでが、修繕費の意義になります。修繕費については、主に2つの考え方があると覚えてください。①通常の維持管理に必要なもので反復性・予測可能性があるか②元通りに戻しただけかどうか。この2つに当てはまるかどうかが修繕費となるかならないかの判断となるでしょう。
まとめ
ここまで資本的支出と修繕費の意義について説明してきましたが、読んでいただいてもすごく曖昧な書き方だと思います。このように非常に判断しづらいのが資本的支出と修繕費になっており、税務調査でも指摘される部分になるということが分かっていただけたのではないでしょうか?
次回以降のコラムで、資本的支出と修繕費の続きについて考えていきたいと思います。資本的支出と修繕費の判断の仕方や具体例についても記載していければと思っていますので、次回以降のコラムを参考にしてください。
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